演題

寒冷凝集素症を合併した大腸癌症例の周術期治療

[演者] 竹石 利之:1
1:新潟県立加茂病院 外科

【緒言】寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)は赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され,抗原抗体反応により赤血球が障害を受け,赤血球寿命が短縮し貧血をきたす自己免疫性溶血性貧血である.CAD症例に手術を施行する場合,寒冷暴露による溶血性貧血や血栓発生による合併症などに十分な注意が必要である.今回,CADを合併したS状結腸癌症例を経験したので手術と周術期管理について報告する.
【症例】78歳,男性.下顎歯肉癌の手術既往あり.4~5年前から寒くなると手足に疼痛を自覚するようになったが,四肢末端のチアノーゼ,感覚異常は認めなかった.貧血なし.腫瘍マーカー(CEA)高値のため精査を行ったところS状結腸癌,多発肝転移を認めた.採血時,室温にて血液検体は凝集し,寒冷凝集素4096倍,直接クームス(+),間接クームス(-),IgM 805の結果から,寒冷凝集素症の合併が判明した.
【成績】S状結腸癌により腸管狭窄と出血を生じていること,また,当院で使用している気腹装置では体温管理が困難であることから開腹による大腸局所切除手術の方針とした.術前より手指足趾の保温に努め,手術室室温を30℃に設定した.手術時は温風式患者加温装置で全身を覆い腹部と背部の両面から加温し,四肢・頭部は断熱ブランケットで被覆して体温低下の予防を行った.輸液は加温コイルを使用し,暖めて投与した.手術はS状結腸切除術を施行し,手術時間1時間31分,出血量182mlだった.術中体温は36℃台で推移し,術中・術後の循環動態は安定していた.末梢循環不全や血栓症の発症は認めなかった.周術期の血液検査では,採血検体は湯煎で保温して凝集しないようにして行い,血算,網状赤血球,LDHなどの結果より血管内溶血は認めなかった.また,高度CADでは,交換輸血・血漿交換による寒冷凝集素の除去,ステロイドホルモンの投与が必要なこともあるが,本症例の周術期には,いずれも行わなかった.術後,リハビリを実施して第29病日に自宅退院した.
【結語】CAD合併症例における手術・周術期管理では,1.寒冷への暴露を避けること(術中・術後の体温保持,輸液製剤の加温)2,血管内溶血や血栓性合併症及びそれらによる臓器障害への注意3.高度CADの際の輸血・血漿交換の準備4.採血時の血液検体の保温(凝集抑制)を念頭においた治療が必要である.
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