発表

2B-067

幼児期金属暴露の学童期気質発達への影響

[責任発表者] 草薙 恵美子:1
[連名発表者・登壇者] 高橋 義信#:2, 髙村 仁知#:3, 星 信子:4, 森口 佑介:5, 陳 省仁:6
1:國學院大學北海道短期大学部, 2:札幌医科大学, 3:奈良女子大学, 4:札幌大谷大学短期大学部, 5:京都大学, 6:光塩学園女子短期大学

【目 的】 化学物資による環境汚染の発達への影響が懸念されている。例えば,鉛暴露は子どもの知能や学業低下,成人期精神病理との関連が(Bellinger, 2008),水銀暴露は知能や注意機能の低下との関連が報告されている(Woods et al., 2013)。しかし,金属暴露の人格発達への影響に関する知見は少なく,さらに子どもの気質発達への影響を検討した研究は殆どない。これまでの我々の結果では,幼児期の鉛暴露量は同時期の気質の「知覚的敏感性」に負の影響,水銀暴露量は「なだまりやすさ」に正の影響を与えていた(Kusanagi et al., 2016)。本研究では,幼児期の子どもの金属暴露が学童期の気質発達に及ぼす影響の有無について縦断的に明らかにする。
【方 法】 協力者は2012年に日本全国5地域の幼稚園, 保育所で依頼をし,子どもの毛髪提供を承諾した保護者(118名)の内,2017~2018年に学童期の紙面調査への承諾・回答の得られた8~11歳の子ども65名(男児35名,女児30名)の保護者である。
 金属暴露量として,子どもの頭皮から12cmまでの毛髪を採取し,18種類の毛髪中金属量をICP-MSにより測定した。本研究ではその内,アルミニウム,クロム,セレニウム,マンガン,スズ,鉛,水銀について検討した。
 学童期気質はThe Temperament in Middle Childhood Questionnaire (Simonds and Rothbart, 2004)を日本語に翻訳し(TMCQ日本語版),母親に回答を求めた。本質問紙は7~10歳の子どもの17の気質尺度を測定するものであるが,11歳児を含めた時の尺度信頼性係数(α)は,「弱い刺激への快」(.26)を除き,ほぼ満足のいく値(.69-.89)が得られたため,11歳児も分析に含めた。
【結 果 と 考 察】 TMCQ日本語版の17の各気質尺度について,各毛髪金属濃度で3(低・中・高)群に分けて,金属濃度(3)×性(2)の分散分析を行った。
 毛髪水銀濃度について,性との交互作用は有意ではなかったが,「怒り・欲求不満」(F (2, 59) = 3.69, p < .05),「集中力」(F (2, 59) = 3.43, p < .05),「衝動性」(F (2, 59) = 7.48, p < .01),「抑制的制御」(F (2, 59) = 9.04, p < .001),「なだまりやすさ」(F (2, 59) = 4.40, p < .05)に関する有意な差がみられ,多重比較(TukeyのHDS法)の結果,水銀濃度の低群は中群よりも「怒り・欲求不満」,「衝動性」得点が低く,「集中力」,「なだまりやすさ」得点が高かった(p < .05)。また「抑制的制御」に関しては,低群は中・高群よりも高かった(p < .05, 図参照)。アルミニウムは「知覚的敏感性」に関して性との間に有意な交互作用がみられ(F (2, 59) = 5.52, p < .01),女児に関してのみアルミニウム濃度の低群が中・高群よりも得点が高かった(p < .05)。また,マンガンと鉛は「強い刺激への快」(F (2, 59) = 3.64, p < .05; F (2, 59) = 3.59, p < .05),スズは「怒り・欲求不満」(F (2, 59 = 4.20, p < .05)に関して性との有意な交互作用があり,マンガン或いは鉛の中・高群でのみ男児の方が「強い刺激への快」得点が高かった(p < .05)。スズについては男児に関してのみ低群が中群よりも「怒り・欲求不満」得点が低かった(p < .05)。クロム,セレニウム濃度で分けた場合,いずれの気質尺度との間にも有意な関連性はなかった。
 本研究結果より,金属暴露が気質発達に影響を与えることが明らかとなった。特に水銀暴露量は多くの気質尺度に影響し,否定的情動性を高め,一方エフォートフル・コントロールに関する尺度得点を低減させていた。また,金属暴露の影響には性差がみられ,アルミニウムは女児に,スズは男児の気質発達に影響していた。気質発達にはそれ以外に養育環境等も影響を与えると考えられるが,これら要因を考慮していない点が本研究の限界であり,今後の課題といえよう。
【引用文献】Bellinger, D. C. (2008). Very low lead exposures and
children's neurodevelopment. Curr. Opin. Pediatr. 20, 172-177.
Kusanagi, E., Takamura, H., Hoshi, N., Chen, S.-J., & Adachi, M. (2016). Influence of exposure to harmful metals on the development of temperament in Japanese children. Conference of ISEE-ISES AC 2016, Sapporo, Japan.
Simonds, J., & Rothbart, M. K. (2004). The Temperament in Middle Childhood Questionnaire (TMCQ): A conputerized self-report instrument for ages 7-10. Occasional Temperament Conference, Athens, GA.
Woods, J. S., Heyer, N. J., Russo, J. E., Martin, M. D., Pillai, P. B., & Farin, F. M. (2013). Modification of neurobehavioral effects of mercury by genetic polymorphisms of metallothionein in children. Neurotoxicol. Teratol. 39, 36-44.
(本研究は科研費基盤研究B(23330208, 17H02197)の助成を受けた)

キーワード
気質/学童期/金属暴露


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