発表

2A-078

男性退職シニアのセカンドライフ構築プロセスの検討
大学等で学ぶ退職後の人生を模索するシニアに着目して

[責任発表者] 藤崎 義久:1
[連名発表者・登壇者] 大川 一郎:2
1:柘製作所, 2:筑波大学

 本研究では,定年退職・現役引退に伴う第二の人生への移行期間において,「セカンドステージ課程を有する大学」を含む高等教育機関で学ぶことを選択した男性退職シニアを対象に,高等教育機関で学ぶ動機を明らかにするとともに,学ぶことを通してセカンドライフを再構築していくプロセスの仮説モデルを構築することを目的とする。本研究において「退職シニア」は50歳以降に会社の定年年齢前後で退職した人たちとし,定年を待たずに退職した早期退職者を含む。「セカンドライフ」は,子育てや仕事を中心とした生活を終えた後の「第二の人生の生き方,働き方」の総称とする。「セカンドステージ課程」とは,都内R大学やS大学に設けられている50歳以上のシニア世代を対象に「第二の人生」の設計を支援する特定のカリキュラム課程とする。
(方法) 
 協力者:定年退職・現役引退後に大学等の高等教育機関で学ぶ男性退職シニア20名。具体的には,セカンドステージ課程を創設し10年の歴史を有する都内R大学に学ぶ男性退職シニアを中心とし,他の大学院等で学ぶ者を対象者に加えた。平均年齢は65.4歳,退職後経過年数は1年から16年(平均4.6年)。一人あたりのインタビュー時間は75分から143分(平均101分)。
 調査時期:2018年8月~10月 
 倫理的配慮:実施に際しては筑波大学大学院人間総合科学研究科倫理審査委員会の審査と承認を得て行った。 
 調査方法:半構造化面接によるインタビュー調査 
 分析方法:分析テーマを「男性退職シニアが学ぶ動機と学びによるセカンドライフ構築プロセスの検討」,分析焦点者を大学等で学ぶ退職後の人生を模索する男性退職シニアと設定した。インタビューの逐語録を作成し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチであるM-GTA(木下,2003)に基づき分析した。理論的サンプリングは,大学の課程を卒業したのか,在学生として履修中であるのかを考慮し,大学院に進学したものを加えて3ステップで進めた。
(結果と考察)
 M-GTAの分析ワークシートを用いて8カテゴリーグループ,21カテゴリー,73概念を生成し,「男性退職シニアが学ぶ動機と学びによるセカンドライフ構築プロセス」の仮説モデルとして結果図を作成した。以下の文中では,カテゴリーグループ,カテゴリー,概念の名称を,順に{ローマ数字_},[〇囲い数字_],「概念番号_」で表記する。さらに,重要な出来事(イベント)である,退職,入学,卒業や,重要なプロセスである,学び直し,セカンドライフの再構築,人間関係の再構築については【 】で表記した。
 分析結果から,【退職】から大学【入学】,【卒業】以降までの期間が,大学入学決定期,学びによる模索・再構築期,新たなスタート期の3つに分かれることを確認した。また,大学での学びは【学び直し】,【人間関係の再構築】,【セカンドライフの再構築】の3プロセスを経て新たなスタートに至ることを確認した。
 50歳以降の年齢で早期退職や定年退職を迎えた男性退職シニアは,【退職】を契機に{Ⅰ_退職がもたらす変化}に直面する。退職後の変化に対応するために,これまでの{Ⅱ_学びの経験と学びの再認識}を背景要因として高等教育機関で学ぶことを検討するようになった退職シニアは,大学入学決定期において{Ⅲ_大学で学ぶ動機}を形成し【学び直し】【人間関係の再構築】【セカンドライフの再構築】を目的として大学【入学】を意思決定する。大学在学中の学びによる模索・再構築期では,{Ⅳ_学業に目覚める}経験や{Ⅴ_新たな仲間との出会い}による人間関係の再構築を行うことを通して{Ⅵ_退職後の生き方を模索する}ようになる。在学中に行う様々な退職後の人生の模索を通じて,セカンドライフの再構築に向けた{Ⅶ_行動を促す経験の獲得}を得た退職シニアは,【卒業】後新たなスタート期を迎え,セカンドライフの{Ⅷ_新たなスタート}を切ることとなる。一方で{Ⅶ_行動を促す経験の獲得}に至らなかった場合には,【卒業】後もセカンドライフの模索が続くこととなる。
(総合考察)
 早期退職や定年退職は,仕事を中心とした人生から退職後の第二の人生への移行の時期であり,大学入学決定期,学びによる模索・再構築期,新たなスタート期はBridges(2004)のトランジションの終わり,ニュートラルゾーン,新たな始まりに相当する。【セカンドライフの再構築】プロセスにおいて自分史の作成(立花, 2013)などの「人生を振返り整理する」ことが,「これからの人生を自らデザインする」プロセスの始まりに繋がるということが確認された。[セカンドライフ構築に取組む]模索を行う中で,過去を顧みる中で「自分を生かせるものを探す」探索が始まり,本当に「やりたいことが見えてくる」気づきの経験をし,内的な再方向づけとして[これからの活動領域を絞る]一連のプロセスがあることも確認することができた。定年退職者は年齢で規定された定年制度によって強制的に地位と役割を失うが,定年後の第二モラトリアム期(木下, 2018)において,高等教育機関で学ぶ退職シニアは,セカンドライフを再構築する過程において「役割のない高齢者の役割」(Rosow,1974)からの離脱を成し遂げ,それぞれの{目標をもって新たなセカンドライフを始める}プロセスを辿ることが明らかになった。
(引用文献)
Bridges, W.(2004). TRANSITION 2ND ED (Transition :  Making Sense of Life’s Changes, 2nd Edition).  Da Capo Press.(倉光修・小林哲郎訳 (2014).トラ ンジション -人生の転機を生かすためにー パンロー リング)
木下 康仁 (2003).グラウンデッド・セオリー・アプローチ の実践―質的研究への誘いー 弘文堂

キーワード
退職シニア/セカンドライフ/修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ


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