発表

2A-075

日誌法による子育て期の母親における自己と他者の調整

[責任発表者] 平井 美佳:1
1:横浜市立大学

 独立性と関係性の両者は,ともに重要であるがゆえに,弁証法的に相互作用し,ダイナミックに共存すると考えられる(Guisinger & Blatt,1999;Tamis-LeMonda, Way, Hughes, Yoshikawa, Kakman, & Niwa,2007)。この2側面の統合は,ライフキャリアの重要な課題の1つでもある(Hansen,1996/2013)。
 平井(2000,2006,2017)は,人々がこの両者をどのように調整するかについて「自己と他者の調整」と呼び,自己と他者の要求が葛藤するジレンマ場面を用いた面接法や質問紙法により検討してきた。しかし,これまでの研究では,架空の場面を使用しており,日常生活の中で実際に生起する自己と他者の調整について検討していない。また,多重役割を担うことの多い成人期についても検討していない。特に,子育て中の女性においては,さまざまな他者との間でさまざまな内容の自己と他者の調整が行われると考えられる。
 そこで,本研究では,子育て期の女性における日常に生起する実際の自己と他者の調整について検討することを目的とした。より具体的には,子育て期の女性に毎日の自己と他者の調整が必要な出来事について記録をつけてもらい,その内容を分析する。
 【方法】
調査協力者:東京とその近郊に暮らす子育て中の38~49歳の女性32名(平均年齢43.28歳,SD=2.52)の協力を得た。要因をある程度統制するために,年齢,子どもの年齢(末子が4歳以上,長子が中学生以下),子どもの数(1人または2人),学歴(短大卒以上),就労経験(卒業後少なくとも1年以上),配偶者がおり生活に困ることのない経済状況であること,などの募集条件を設けた。場合によってライフスタイルにより,ほぼフルタイムで仕事をしている両立群(17名)と専業主婦や現在の仕事が短時間のアルバイト等の子育て中心群(15名)とに分類して検討する。
調査の手続き:本研究は全体として3回の面接調査,2回の日誌法による調査(1週間),事前事後の質問紙調査を含む短期縦断的調査である。1回目の面接で手続きについて説明し,予め約束した1週間にWeb上のアンケートフォームにその日の調整について回答するよう求めた。同じことを1人つき2回,2ヶ月以上を空けて実施した。また,日誌法を実施した1ヶ月以内に面接調査を行い,記録された内容について詳細を確認した。
調査内容:毎日のWeb調査では,その日の中で「あなた自身と他者(家族を含む)との間で,要求や希望の対立や葛藤が生じて調整が必要になったこと」のうち最も印象に残る出来事の内容(自由記述),その出来事の困る程度(困る~困らない,5段階),それは解決したか(解決,未解決,どちらともいえない),そして,その日の生活満足度(10点満点)を尋ねた。事後の面接調査では各記録について誰とのどのような調整かの詳細を確認し,さらに,類似のことが起こる頻度やその調整が与えた影響などについて尋ねた。
 【結果】
 まず,32名×7日×2回=計448のエピソードについて筆者と心理学を専攻する大学院生とでKJ法による分類を行った。ボトムアップに試行錯誤を繰り返した結果,30項目に分類できると判断した。項目を主な対象別にまとめると,子どもとの調整39.5%,夫との調整17.9%,仕事の調整11.8%,仕事-家庭間の調整7.4%,自分の親との調整4.2%,その他の人との調整14.3%,記載なしが4.9%であった。このうち「解決した」とされたのが50.9%,また,困る程度(5段階評定)は平均3.56 (SD=1.24)であった。類似の出来事が起こる頻度は,初めて~年数回が28.6%,月1回~数回が28.2%,週1回~毎日が43.2%であった。
 次に,「(あまり)困らない」とされた出来事を除き,前日から続く出来事(4.2%)は最初の1回のみを対象として,実際に葛藤が生じたエピソード330(73.7%)の出来事を分析対象とした(Table 1)。度数が極めて少なく設問の趣旨から外れる「自分との調整」を除外し,Table 1の主な対象の頻度を個人の変数として平均値を算出した結果,平均値は夫との調整が2.03 (SD=1.91),子どもとの調整が3.13 (SD=2.09),家族間の調整が.88 (SD=1.13),仕事関連の調整が2.25 (SD=2.45),その他の人との調整が1.78 (SD=1.71)であった。両立群と子育て中心群とで比較すると,子どもとの調整は家庭中心群で多く(t(30)=-3.09, p <.01),仕事の調整は両立群で多かったが(t(30)=4.93, p<.01),夫,家族間,その他の人との調整においては有意な差はなかった。困る程度の14日間の平均との相関は,夫(r=.58, p<.01)と家族間(r=.37,p<.05)においてのみ有意な正の相関が認められ,また,満足度の平均との相関をみると夫との調整との間にのみ有意な負の相関があった(r=-.48, p<.01)。
 以上のことから,子育て中の女性は様々な他者との調整を行うが,夫や家族間の調整に苦慮しており,また,夫との調整の多さがが生活満足感を低めることが示唆された。

キーワード
自己と他者の調整/日誌法/母親


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