発表

2A-074

Derailment Scale日本語版の作成および心理学的特徴の検討

[責任発表者] 長峯 聖人:1
[連名発表者・登壇者] 千島 雄太:2, 外山 美樹:1
1:筑波大学, 2:京都大学

問題と目的  人はしばしば,生きていく中で「自分は将来こうなるだろう」,「自分は今後こういう生き方をしていくだろう」といった,自己像や人生の岐路に関する予想を立てる。ある者はその予想通りの自分になれる一方で,ある者はそうなることができず,「昔思い描いていた将来像と現在の自分の姿が異なっている」と考えるかもしれない。
 後者に相当するような,自己像や人生の岐路が時間と共に変化していく感覚は“derailment”と呼ばれる(Burrow et al., 2018)。この概念はナラティブ・アイデンティティの文脈では幾度か確認されてきたが,実証的に検討する術が存在しなかった。その中でBurrow et al.(2018)はderailmentを心理学的に定義し,これを測定するための尺度を作成したうえでderailmentの心理学的特徴を検討した。その結果,derailmentは自己連続性や自己概念の明確性といった指標とは負の相関,抑うつや不安といった心理的不適応に関する指標とは正の相関を示すことを明らかにした。一方で,derailmentは人生の目的やアイデンティティの探究とも正の相関を示すなど,適応的な側面があることも明らかになっている。
 Derailmentに関する研究は未だ少なく,明らかにされていないことも多い。加えて,derailmentが持つ効果には文化差があることも指摘されており(Burrow et al., 2018),国際的な検討も求められている。しかし現状,derailmentを測定する日本語の尺度は存在しない。そこで本研究では,Burrow et al.(2018)が作成したderailment scaleの日本語版を作成し,その心理学的特徴について検討することを目的とした。
方法  調査参加者 関東圏内の大学生314名(男性113名,女性201名)を対象とした。このうち84名については,再検査信頼性を検証するため,4週間後に再びDerailment Scale日本語版へ回答してもらった。
 調査方法 大学の授業の前後を使い,集団形式で実施した。
 使用尺度 以下の尺度を使用した。1: Derailment Scale日本語版 原著者に許可を得て,著者らが独自に翻訳したもの。全10項目から構成される(5件法)。このうち,項目1,2,5,10は逆転項目である。2: 自己連続性 Hershfield et al.(2009)の未来自己連続性尺度を過去用に改変したもの。2項目7件法。3: 自己概念の明確性 徳永・堀内(2015)の尺度を使用。12項目5件法。4:アイデンティティの探究:DIDS日本語版(中間他, 2014)より,広い探求,深い探求,反芻的探究の下位尺度を使用。各5項目5件法。5: 継時的比較 並川(2011)の尺度を使用した。11項目5件法。
結果  因子分析 まず,derailment scale日本語版の因子構造を確認するために主成分分析を行った(Table 1)。その結果,項目4と項目10においては負荷量が.35を下回り,特に項目4に関しては著しく低い値となった(.14)。しかし,α係数の値が.73と良好だったこと,および今後の研究で国際比較を行う際に原版の尺度と同一の項目を用いた方が等価性が保たれると判断したことから,以降の分析ではこの10項目を合算した得点をderailment scaleのスコアとして使用することとした。
 相関分析 続いて,derailment scale日本語版の外的な側面における構成概念妥当性を検証するため,相関分析を行った。その結果,予想通り,derailmentは自己連続性および自己概念の明確性とは負の相関(rs=-.18, p<.01)を示し,広い探求,深い探求,反芻的探究とはすべて正の相関を示した(順に,rs=.12, .17, .14, ps<.05)。
 再検査信頼性の検証 2回の調査に参加した84名を対象に,再検査信頼性を確認するため2時点間の相関係数を算出した。その結果,おおむね良好な値が確認された(r=.61, p<.01)。
考察  本研究の結果から,derailment scale日本語版は十分な信頼性・妥当性を有することが示された。Burrow et al.(2018)と同様,日本においてもderailmentはその程度が強いと自己連続性が低く,自己概念が明確でないというネガティブな特徴があるが,その一方で自己についてより探求しようというポジティブな傾向を持つことが明らかになった。これらの効果量はあまり大きくはないが,先行研究でも同様であり,大きな問題はないといえよう。また,再検査信頼性の値もおおむね良好であった。したがって,derailmentの得点はある程度安定したものであると考えられる。
 これらの結果は先行研究と同様であり事前の予測と一致しているが,同時にderailmentの効果やその安定性には第3の変数が調整要因として存在しているという可能性も示している。今後は,本研究では扱っていない心理的不適応との関連も含め,derailmentが持つ効果およびそれに対する調整要因について多様な観点からの検討が望まれる。

キーワード
脱線/自己/自己連続性


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