発表

2A-073

挫折経験の意味づけと自我同一性の発達の関連
―他者視点の取り入れの有無による違いの検討―

[責任発表者] 外山 結:1
[連名発表者・登壇者] 永久 ひさ子:1
1:文京学院大学

問題と目的 挫折とは,ある目的や目標への到達を目指して続けてきたことが,中途でくじけ折れ,だめになることである(北村, 1983)。その挫折に対して様々な対応がなされるが,対処ができないと判断すると,自己の無力性を感じ,意欲を失い,情緒的にも抑うつ状態に陥る可能性がある(北村, 1983)。堀田・杉江(2013)は,挫折経験が自我同一性の達成につながる場合もあり,この違いには挫折経験の意味づけが関連するという。このことから,挫折経験は自我同一性の拡散につながる可能性がある。我々は,挫折経験を乗り越えるために,カウンセラーなどに話したり,インターネットや本で自分と同様の経験について調べたりすることがある。牧野(2014)は,悩みを他者に相談することで解決の糸口が見つかり,または解決はしなくとも心が晴れたと感じることを明らかにしている。松下(2008)は,挫折経験への対処法として,同様の境遇の人と悩みを共有する相談以外のものもあると述べている。このような他者の視点を取り入れることは,挫折経験の意味づけを行う上でどのような意味があるのだろうか。本研究では,挫折経験に対する意味づけと自我同一性の発達との関連を検討するとともに,それが他者視点の取り入れによってどう異なるかについて検討することを目的とした。
方法 大学生149名(男性55名,女性92名,不明2名,平均年齢19.05歳,SD=1.23)を対象に質問紙調査を行った。調査内容は,挫折経験の意味づけ:宅(2005)のストレスに対する意味の付与尺度13項目に加え,将来に対する考え方の5項目を独自に作成して追加した。自我同一性:多次元自我同一性尺度(谷,2001)20項目,独自に作成した他者視点の取入れに関する項目をいずれも4件法で回答を求めた。
結果と考察 挫折経験の意味づけ尺度項目について,主因子法,プロマックス回転による因子分析を行った。その結果3因子を抽出し,それぞれ “ポジティブな側面への焦点づけ”,“出来事を経験した自己に対する評価”,“出来事のもつメッセージ性のキャッチ”とした。
挫折経験の意味づけと自我同一性の関連を検討するために,相関分析を行った(Table1)。その結果,“出来事を経験した自己に対する評価”と“心理社会的同一性”の間に有意な正の相関がみられた。
これは,“この経験が自信になっていると思う”など挫折を経験した自己に対してポジティブな評価を行うことで,自分には社会の中でも頑張っていける力があるなどという考え方から社会とのつながりを見出し,社会への適応力を高めたと考えられる。
次に,これらの関係が,他者視点の取り入れの有無別によって違いがあるかを検討した(Table2)。その結果,他者に“話した”群では,“出来事のもつメッセージ性のキャッチ”と“自己斉一性・連続性”の間に弱いながらも負の相関がみられた。
“出来事のもつメッセージ性のキャッチ”が高いと“自己斉一性・連続性”が低くなり自己変容をもたらしたのではないかと考えられる。堀田・杉江(2013)は,挫折経験は自己変容をもたらす契機であると述べている。このことから,他者視点の取入れを行った場合には,挫折経験のもつメッセージ性が獲得され,その結果自己変容がもたらされ,挫折経験の捉え直しがなされることで自己変容が促進されると考えられる。また,“話さなかった”群では,相関はみられなかったため他者に話したことで自己変容が促進したと考えられる。
次に“話さなかった”群では,“出来事を経験した自己に対する評価 ”と“心理社会的同一性”との間に相関があり,“出来事を経験した自己に対する評価”の高さが“心理社会的同一性”を左右することが示された。
挫折経験による抑うつ状態は視野を狭める。そのため,他者視点の取り入れがない場合には,挫折経験を自分の自信に繋げられるような強さを持った人ならば,“心理社会的同一性”の発達につながるが,そうでない場合には,自我同一性が退行する可能性があるといえるだろう。
引用文献 堀田 亮・杉江 征(2013).挫折経験の意味づけが自己概念の変容に与える影響感 心理学研究,84,408-418.
北村 晴朗(1983).挫折経験の意味(“おちこぼれ新論”特集)教育と医学,31,479-485.

キーワード
挫折経験の意味づけ/自我同一性/他者視点の取り入れ


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