発表

2A-072

単独のふりシグナルは乳幼児のふりの理解を促すかーふり場面と現実場面の比較からー

[責任発表者] 伴 碧:1
[連名発表者・登壇者] 内山 伊知郎:2
1:大阪大学, 2:同志社大学

 目的
ふり遊び(pretend play)とは,物Aを物Bの代用品として用いる,または状況Aがあたかも状況Bであるかのごとくみなされて,それらの状況のもとで特定の行為が演示されることをいう(高橋,1996)。このようなふり遊びは乳幼児期から出現するが,他者の行為が「ふりである」と乳幼児が理解するためには,大人のふりシグナルが重要であることが指摘されている(e.g., Ma & Lillard, 2006)。ふりシグナルの具体的なものとして,ふり遊び場面の大人の「笑顔」や「発話(効果音)」が挙げられている(e.g., Nakamichi, 2014)。これらのふりシグナルが乳幼児に提示されることで,乳幼児は,大人の行動がふりなのか,現実なのかといったふりと現実との区別が可能となる(e.g., Ma&Lillard, 2017) 。
 しかし,ふり遊び場面においては複数のふりシグナルが同時に提示されており,笑顔や発話といった単独のふりシグナルそのものが,乳幼児のふりと現実との区別に影響を与えるかまでは明らかとなっていない。そこで本研究では,ふりシグナルを単独で示した場合に,乳幼児がふりと現実との区別が可能となるかについて検討を行った。
 
 方法
実験参加者:幼稚園の園児30ヵ月児10名,36ヵ月児20名を対象とした。実験では,単独のふりシグナル条件として,笑顔条件,発話条件を設定した。また,単独のふりシグナル条件では,乳幼児のふりと現実との区別に影響を及ぼさない可能性もあるため,笑顔+発話の複合条件を設定した。参加者はいずれかの条件に割り振られた。
材料・装置:実験は幼稚園内の一室で行われた。実験室にはモニターが置かれ,参加者はモニターの前に座った。実験では,モニターにテスト施行の刺激となる動画を提示した。
テスト試行:動画では2人の女性が登場し,一人がふりを,もう一人が実際に飲食を行った。笑顔条件では,女性はチーズを口に入れるふりをしてから口を閉じたまま笑顔を提示した状態で咀嚼した。また,発話条件では,チーズを口に入れるふりをした後,真顔で「もぐもぐ,あーおいしい」と発し,その後口を閉じたまま咀嚼した。笑顔+発話条件では,チーズを口に入れるふりをした後,笑顔を提示した状態で「もぐもぐ,あーおいしい」と発し,口を閉じたまま咀嚼した。飲食を行った女性は,真顔で口を閉じたまま咀嚼した。
 実験者は,2つのボウルを参加者に提示し,「今から,お皿からこのチーズを本当に食べているお姉ちゃんと,お皿からこのおはじきをウソっこで食べているふりをしているお姉ちゃんがテレビに出てくるよ。テレビを見た後に,○○ちゃん (くん) におはじき入っているお皿どっちだって聞くから,当ててね」と教示し,いずれかの動画を提示した。その後実験者は,参加者の目の前に置かれた2つのお皿を指差しながら,「どちらのお皿におはじきが入っていると思うか,指差しして教えてね」と教示した。

 結果と考察
年齢および条件におけるテスト試行の正答率 (%) を図1に示す。子どもがふりが現実かを理解している指標として,おはじきが入っているボウルを指さしたかを用いた。おはじきが入っているボウルを指さした場合を正答,チーズが入っているボウルを指さした場合を不正答とした。年齢・条件それぞれが,テスト試行の回答 (正答・不正答) に影響したかをみるために,x2検定を行った。まず,年齢とテストの回答についてx2検定で分析した結果,有意差が認められなかった (x2(1)=.067, ns)。つまり,テスト試行の回答に,年齢による影響は見られないことが示された。次に,条件とテストの回答について分析した結果,条件によって正答・不正答の人数比が異なる傾向が示された (x2(2)=5.09, p<.10)。つまり,条件によってテスト試行の回答に違いが見られた。そこで,3つの条件の回答の人数比の差をみるために,残差分析を行った。その結果,発話条件において調整済み残差の値が期待値よりも有意に高く (p<.05),笑顔+発話条件において調整済み残差の値が期待値よりも有意に低い傾向がみられた (p<.10)。つまり,発話条件では他の条件に比べテスト試行の正答者が有意に多く,笑顔+発話条件では他の条件に比べてテスト試行の正答者が有意に少ない傾向があることが示された。さらに発話条件における正答者,不正答者の人数比を確認するために,1変量のx2検定を行ったところ,有意な傾向が示された (x2(1)=3.60, p<.10)。つまり,発話条件において有意に正答する人数が多い傾向が示された。
 本研究の目的は,乳幼児を対象に,ふりシグナルを単独で示した場合に,乳幼児がふりと現実との区別が可能となるかを検討することであった。その結果,発話条件においてのみ,テスト試行を正答した子どもの人数が,正答できなかった子どもの人数よりも有意に多いことが示された。つまり,ふりシグナル単独の要素の中でも「発話」というシグナルが,子どもがふりと現実とを区別するのに有効である可能性が示唆された。

キーワード
ふり遊び/乳幼児/ふりシグナル


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