発表

1D-068

初期数発達に関するエピソード分析
ー発達過程に及ぼす要因ー

[責任発表者] 山形 恭子:1
1:京都ノートルダム女子大学

初期数発達に関する研究は数能力の発達を中心に検討されてきたが(Fuson,1988;Levine et al.,2010ほか),数能力の獲得に影響する要因については必ずしも十分な検討がなされてきたとは言い難い。筆者は先の研究で数能力と数表記の関連性や周囲の環境に示されている数環境プリントの理解,対人関係などの分析を通じて初期数発達に影響する要因を追究してきた(山形・古池,2017,2018)。本研究はその続報であるが,約1歳半から3歳の幼児を対象に数発達における発達過程と発達機制を縦断研究のエピソードから分析して初期数発達に及ぼす影響要因を解明する。
【方法】調査対象児:7名(男児3名・女児4名,A~G児)。母親に質問票を毎月送付して家庭における数・文字活動についてエピソードを報告するように依頼した。期間は約2年間である。調査への参加の同意を母親からえた。
手続き:質問票では前月に家庭で見られた数と文字に関する活動についてエピソードを報告するように依頼した。記入に関する特別な教示は与えていない。
エピソード分析:エピソードは対象児毎に番号を付して月齢順に配列して整理し,内容にしたがって発達過程の特徴を抽出した。発達過程における特徴は発達段階と捉えて下記に結果を挙げる。その場合,特徴の抽出では研究目的を知らない評定者と筆者でその判定をおこなった。評定一致率は約79%であった。不一致の場合は両者が議論の上で決定した。
【結果】(1)エピソード数 AからG児の観察月数は26,25,11,24,24,25,34カ月であった。C児は母親の就業のために1年間の参加であった。エピソード数は113,23,21,23,26,19,82,合計307である。エピソード報告では個人差が窺われた。エピソードの内容は3割が数環境プリントの認知に関連していた(山形・古池,2018参照)。他は数唱や計数などの数活動に関連する行動であった。
(2)初期数発達の発達過程 エピソードに基づいて発達過程を検討したところ,教示,模倣,計数,基数理解,数環境プリントの認知,読字,書字,計算の諸段階が見られた。これらの段階をエピソードに基づいて以下で検討する。ここでは教示と模倣,読字と書字は合わせて紹介した。Table1に具体的なエピソードを示す。
1.教示と模倣 養育者は日常生活で対象児に数唱を唱えた。Table 1に示すように入浴中に数唱がおこなわれた。この場合に養育者は必ずしも数を教示するという意図はなかったと推定され,慣習的な行動と解される。対象児は次第に数唱の一部を模倣した。
2.計数 数唱獲得後に事物を数えることが見られた。最初は数唱と事物の一対一対応が見られなかったが,次に,2,3の事物について対応が可能になり,数個の事物へと発展した。Gelman らでは計数の原理が2歳で可能であると主張しているが,本研究では少数の事物における計数においてその見解と一致した。
3.基数 計数が可能になると基数が理解された。最初は3までの小さい数の基数が理解され,大きい数の基数理解はできなかった。その後に3以上の数の基数理解が生じた。
4.数環境プリントの認知 周囲の環境にある事物に示された数を認知することが見られた。周囲の環境にはカレンダーや時計,絵本,広告などに数字が示され,それらを対象児が養育者などと認知することが認められた。これらの数環境プリントを通じて数理解が進展する可能性が考えられた。
5.読字と書字 数環境プリントの認知では数を読むことが見られ,このような経験や教示を通じて読字が可能となり,さらに4歳前後から数を書けるようになった。
6.計算 計算は本対象児ではG児でのみ見られた。他児では観察が3歳までであったことから計算を観察するに至らなかった。
【考察】エピソード分析から養育者との対人的やりとりを介して数唱や計数,数環境プリントの認知,読字,書字,計算が出現することが認められた。年齢にともなって初期数発達の諸段階がこのように見出されたが,教示や周囲の環境に見られる数プリント理解,また,その他教育機材などがその獲得に作用していることが推測された。従来の数発達研究では養育者の教示が就学前児で取り上げられているが,本研究で示された数環境プリントなどは検討されていない。発達研究では足場づくりなどの社会的文脈の重要性が指摘されているが,数発達においても同様な働きの関与が示唆された。今後は社会的対人的要因を考慮した新しい数の初期発達モデルの構築が要請される。
引用文献 Fuson (1988)。Gelman et al. (1978)。Levine et al. (2010) Dev. Psychol. 山形・古池(2018)数・数表記の発生に及ぼす環境要因の分析 日発心論文集,p.351. 山形・古池(2017)数・数表記の発達とその関連性。日心第81回論文集,p.864.
(本研究は科研費基盤研究Cの助成を受けた。記して感謝します。)

キーワード
初期数発達/発達過程/縦断研究


詳細検索