発表

1D-067

日本語版Infant Crying Questionnaireの作成

[責任発表者] 平岡 大樹:1,2
[連名発表者・登壇者] 野村 理朗:1
1:京都大学, 2:日本学術振興会

背景・目的
乳児の泣き声は育児ストレスの要因である一方で(Reijneveld et al., 2004),泣き声への養育態度は,子どもの発達に強く影響する(McElwain & Booth-Laforce, 2006)。乳児の泣き声に対する養育者の反応の個人差を明らかにすることは,養育行動や子どもの発達に関連する分野の基礎・応用研究両者において意義が大きい。しかし,泣き声への反応を測定する実験は参加者・実験者双方の負担,適切なサンプルサイズの確保等の問題があった。そのため,実施コストの点で負担が少ない泣きへの感情を測定する手法を確立することが有用である。Haltigan et al. (2012)は乳児の泣き声に対する信念を測定するInfant Crying Questionnaire(以下ICQ)を作成した。ICQは乳児志向的な態度である「受容」・「コミュニケーション」,および養育者志向的な態度である「指示的統制」・「最小化」・「甘やかし」の5因子からなり,調査や実験研究において国際的に使用されている(e.g. Leerkes et al., 2015)。本研究はICQを日本語に翻訳し,理論的に関連することが予測されるその他の質問紙尺度,および乳児の気質の発達との関連性を示すことで,ICQ日本語版の信頼性・妥当性を確認し,尺度として開発することを目的とする。
方法
ICQ日本語版の作成に際し,尺度開発者の承諾を得た。発表者により日本語訳がなされ,バックトランスレーションを経た後,日本語版を作成した。
Web上で調査を実施した。回答時点で年少の子どもが2歳以下である母親のみを対象とし,250名から回答を得た。参加者の平均年齢は31.78±4.79歳,子どもの平均月齢は13.36±7.38か月,うち初産の母親は138人であった。
調査では日本語版ICQ(全32項目,5件法)への回答に加え,日本語版対人反応性質問紙(日道 et al., 2017),日本版Buss-Perry攻撃性質問紙(安藤 et al., 1999)を使用した。さらに,短縮版乳児の行動チェックリスト(中川・木村・鋤柄, 2009)を使用し,ICQとの関連を検討した。解析には統計ソフトRおよびlavaanパッケージを使用した。
結果と考察
原版の5因子モデルについて確証的因子分析を行ったところ,解の識別が不可能であった。そこで,因子負荷量が著しく低い2項目を除き,再度分析を行ったところ,十分とは言い難い値だが,許容できる適合度であったため(CFI = .82, RMSEA = . 07),5つの下位概念を測定する尺度とみなした。各回尺度の内的整合性について,クロンバックのα係数を算出した結果,受容(α = .79),最小化 (α = .78),指示的統制 (α = .78), 甘やかし (α = .76)に関しては十分な値を示した。しかし,コミュニケーションに関しては低い値を示した(α = .57)。
対人反応性質問紙に関して,共感的関心得点と受容,コミュニケーション得点の間に正の相関関係が見られた。各尺度とも他者志向的な態度を測定するものとされる点において,従来の知見に合致するものであった。同時に自己志向的な態度である個人的苦痛得点は最小化,指示的統制得点と正に相関しており,想定した概念を測定できているといえる。攻撃性質問紙に関して,原版では泣き声を聴取した際の怒り評定とICQの最小化得点の間に正の相関が見られていた。本調査では攻撃性の身体的攻撃・短気・敵意得点との間に正の関連が見られ,おおむね基準関連妥当性が示されたと言える。
ICQと乳児行動チェックリストの各得点を用いて共分散構造分析を行った結果を図1に示す。5%水準で有意であった係数(標準化推定値)のみ記載した。また,適合度指標はCFI=1.00,RMSEA=.00であり,十分な適合を示した。コミュニケーション得点は乳児のポジティブ情動性・情動制御の気質を正に予測していた。一方で,最小化得点は,乳児のネガティブ情動性を正に予測し,情動制御の気質を負に予測していた。
考察
本研究の結果,ICQは関連する各尺度との有意な関連があることが確認でき,今後の母子を対象とした基礎・応用両者の発達研究において有用な尺度であると考えられる。しかし,因子構造やα係数の一部に関しては十分な値が得られたとは言えず,今後は養育態度の文化差の存在等を考慮し,さらに検討を重ねる必要がある。

キーワード
乳児の泣き/養育/質問紙法


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