発表

1C-067

高齢者の幸福感の縦断的変化:認知機能の影響

[責任発表者] 八木 彩乃:1
[連名発表者・登壇者] 野内 類:2, 村山 航#:1,3, 榊 美知子:1,3, 川島 隆太#:2
1:高知工科大学, 2:東北大学, 3:レディング大学

目 的 高齢化が進む現代社会において,加齢が日常的な幸福感にどのような影響を与えるかを明らかにすることは重要である。これまでの研究では,高齢者ほど日常におけるネガティブな感情経験は記憶されにくいことや (Kobau et al., 2004),ネガティブな事物に対する扁桃体の活動が高齢者では低減することなどが報告されており (Mather et al., 2004),様々な研究で高齢者は日々の幸福感が高くなる傾向にあることが示されている。これらの知見に対し,Carstensen et al. (2011) は縦断調査により,60代までは加齢に伴い感情的なポジティブ経験が増加するものの,それ以降は低減していくことを明らかにした。これは,加齢に伴う物事の肯定的な面に着目するような認知面の変化 (ポジティビティ効果; Kennedy et al., 2004) がある一方で,加齢による身体機能や認知機能の劣化が日常生活への不自由さとして顕著に表れてくるためかもしれない。
 そこで本研究では,幸福感の継時的な変化に対し,参加者自身の認知機能のレベルが影響を及ぼすか否かを明らかにする。
方 法分析対象 2011年8月から2016年6月の期間に計12回の縦断調査が行われ,成人女性59名の参加者 (1時点め:26-79歳, M = 64.69, SD = 11.57) が認知課題に取り組んだ。調査実施期間中,参加率は徐々に減少し,最終の12時点めでは27.2%の参加率となった。ただし12時点めまで参加した参加者とそうではない参加者の間で,1時点めでの主要な変数の得点に有意な差は見られなかった。よって全ての測定データを分析対象とした。
手続き 調査実施期間中の任意の12時点で,アンケート用紙が参加者の自宅に郵送された。調査紙には健康自己評価質問紙 (Subjective well-being inventory; SUBI) が含まれ,心の健康度と心の疲労度が測定された (1:全く当てはまらない-3:とても当てはまる)。心の健康度の得点は高いほど,また心の疲労度の得点は低いほど,回答者が健康な心的状態にあることを示す。さらに調査紙の受け取り後,参加者は研究室へ出向き,ストループ課題およびWAISの逆唱を含む認知課題に取り組んだ。本研究では,1時点めの課題成績の標準偏差を基準に,ストループ課題と逆唱のz得点を算出し,その平均値を実行機能の得点とした。
 なお,本研究は東北大学医学系研究科の倫理委員会の許可を受けて実施した。
結 果・考 察 幸福感の継時的な変化と,実行機能がその変化へ及ぼす影響を明らかにするために,1時点めでの実行機能得点を説明変数とする幸福感の成長曲線モデルの分析を実施した。なお,心の健康度と心の疲労度のそれぞれを従属変数とする2つのモデルを用いた。モデルは次のように記述される:
Level-1: yij = β0j + β1j(年齢ij) + β2j(年齢ij)2 + rij
Level-2: β0j = γ00 + γ01(実行機能j) + u0j
  β1j = γ10 + γ11(実行機能j) + u1j
   β2j = γ20 + γ21(実行機能j) + u2j
 ここでのyは参加者jのi時点めでの幸福感 (心の健康度 or 心の疲労度) の得点,年齢ijはi時点めにおける参加者jの年齢である。
 分析の結果,心の健康度を従属変数とするモデルでは,年齢に有意な正の効果があり (γ10 = 0.34, p < .05),参加者の年齢が上がるにつれてその参加者の心的健康は改善していったことが示された。実行機能は年齢の一次の項,二次の項のいずれの効果にも影響していなかった。
 また,心の疲労度を従属変数とするモデルでは,年齢に有意な負の効果があり (γ10 = -0.46, p < .001),参加者は加齢とともに心の疲労が低減することが示された。一方で,年齢の二次の項に有意な正の効果があること (γ20 = 0.14, p < .01),この効果は実行機能により緩和されることが示された (γ21 = -0.12, p < .05)。つまり,実行機能の得点が低い参加者は,加齢に伴い心の疲労は一旦低下するものの,一定年齢を超えると心の疲労が高まる,ということが示唆されている。この年齢の効果は,60代以降で再びポジティブ経験が低減していくことを示したCarstensen et al. (2011) の結果と一貫している。これに対し,実行機能の得点が高い参加者は,70歳を超えても心の疲労度は加齢に伴って低減していた。図1は,実行機能がベースラインよりも1SD (0.84) 高い群,および1SD低い群の推定成長曲線をプロットしたものである。
 以上から,幸福感は加齢に伴い高まること,ただし,心の疲労度については実行機能の影響が見られ,実行機能の低い群では一定年齢を超えると一転して心の疲労度が増加することが明らかになった。こうした結果は,ポジティビティ効果が認知機能の状態に影響を受けることを示している。本研究の結果は,認知機能の快復を利用した高齢者への介入に示唆を与えるものである。

キーワード
幸福感/高齢者/ポジティビティ効果


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