発表

1C-066

他者の食物の好みに関する幼児の社会的推論

[責任発表者] 中道 直子:1
1:日本女子体育大学

目 的
適切な物を選んで食べることは,ヒトが健康を維持し命を守るために重要な課題である.幼児期のヒトは,食物に関する限られた知識しか持っていない.しかしその代わりに幼児は,他者の食行動から何を食べるべきかを学ぶことができる.実際最近の研究は,幼児が同じ社会や文化に属する他者が好む物を自らも食べようとすることを示している(Shutts et al., 2013).このように幼児が同じ社会や文化に属する他者の好む食物を選ぶのは,彼らが食物の好みはそれらの他者間で共有されやすいと推測しているからだと考えられる.しかし幼児がこのような社会的推論を行っているかどうかは明らかではない.そこで本研究では,食物の好みや嫌悪がどのように他者間で共有されると,幼児が推論するのかを検討した.

方 法
参加児:5-6歳児32名(男女各16名,M=69.50,SD=5.24).半数の参加児は,モデルが美味しそうに食べるのを他者が見る「好き条件」の2施行を,残り半数はモデルがマズそうに食べるのを他者が見る「嫌悪条件」の2施行を先に受けた.
要因計画:モデルの表現条件(2:好き,嫌悪)×他者とモデルの性別組合せ(2:同性,異性).
手順:参加児は好き条件の2施行と嫌悪条件の2施行の全4施行に参加した.以下に好き条件を先に行った場合の手順を示す.参加児は実験者から,PC上に外国の珍しい食物を食べようか迷っている子どもが出てくるので,その子がそれを食べるかどうかを考えてもらいと依頼された.参加児は実験者から場面1(図1)を見せられた.以下では,中央の子どもを“他者”,両脇の子どもを“モデル”とする(モデルの1人は他者と同性,もう1人は異性).参加児は,3人の子どもを紹介され, 2人のモデルの前にある皿には異なる食物が入っていると説明された.また参加児は,他者はいずれの食物も食べたことがなく,食べようかどうか迷っている,と説明された.場面2では,左側のモデルが食物Xを美味しそうに3回食べた後,場面3では右側のモデルが食物Yを美味しそうに3回食べた.いずれの場面でも,他者はモデルの方に体と顔を向けて,モデルの行動を見ていた.それから場面1を再度提示され,参加児は「真ん中の子は,この後Xを食べたかな?それとも食べなかったかな?」と聞かれた.同様に右側の食物Yについても聞かれた.同様の方法で好き条件の第2施行が行われた(第1,2施行では他者の性別が異なった).次に嫌悪条件の2施行を行った.嫌悪条件は,場面2と3においてモデルがマズそうに食べた以外は,好き条件と同様であった.
結果
食べる得点:質問に「食べる」と答えた場合に1点,「食べない」と答えた場合に0点を与え,食べる得点を算出した(図2).これを従属変数とし,表現(2:好き,嫌悪)×他者とモデルの性別の組合せ(2:同性,異性)の繰り返しのある2要因の分散分析を行った(いずれも被験者内要因).表現の主効果が有意で(F(1, 31)=15.89, p<.001),嫌悪条件(M=1.56,SD=1.41)より,好き条件(M=2.84,SD=1.11)で得点が有意に高かった.性別の組合せの主効果は有意ではなかった(F(1, 31)=2.76, ns).
さらに表現×性別の組合せの交互作用が有意であった(F(1, 31)=5.51, p<.05).交互作用について検討するために,単純主効果の検定を行った.まず,表現別に各性別の得点を比較したところ,好き条件でのみ単純主効果が有意で(F(1, 31)=6.81, p<.05),他者とモデルが異性である場合より,同性の場合に得点が高かった.次に,性別の組合せ別に各表現の得点を比較したところ,同性施行(F(1, 31)=23.37, p<.001,)と異性施行(F(1, 31)=5.29, p<.05)の単純主効果が有意で,いずれも嫌悪条件より好き条件で得点が高かった.
考察
幼児は,他者は異性より同性のモデルが美味しそうに食べている物を,食べるだろうと推測した.一方で幼児は,他者は同性異性に関係なく,モデルがマズそうに食べているものは,食べようとしないだろうと推測した.このように幼児は,食物の好みは異性より同性の人々の間で共有されやすい一方で,食物の嫌悪はあらゆる人々の間で共有されるはずだと推論していることが示された.

キーワード
幼児/食物/社会的推論


詳細検索