発表

1C-064

配偶者との死別前後における高齢者の人生満足感

[責任発表者] 中川 威:1,2
[連名発表者・登壇者] ヒューラー ギゼム#:3
1:国立長寿医療研究センター, 2:日本学術振興会, 3:チューリッヒ大学

目的 配偶者との死別は,高齢期に経験することが多いライフイベントであり,健康と幸福感に悪影響を及ぼすことが知られてきた。近年では,大多数はライフイベントに適応できることも知られている。ただし,どの程度適応できるかは個人差が大きく,適応を促す資源は十分明らかになっていない。
 先行研究の課題として,研究の多くが,ライフイベント以前の資源を後ろ向きに測定するか,ライフイベント以降の資源を前向きに測定するため,資源と適応の因果関係が明確ではないことが挙げられる。しかし,ライフイベント以前の資源を前向きに測定した研究はいまだ希少である。
 そこで本研究は,配偶者との死別以前の資源を前向きに測定し,死別から幸福感への悪影響を資源が緩衝するかを検討することを目的とした。
方法 分析対象 19年間にわたる7波まで収集された全国高齢者パネル調査のデータを用いた。5,197名の参加者のうち,少なくとも1回は目的変数に回答し,初回調査時に配偶者は生存したが,追跡期間中に配偶者と死別し,その後再婚せず,説明変数に欠損がない450名(調査参加回数4.87±1.61回; 死別時年齢74.66±6.13歳; 女性74.7%)を分析対象とした。
 測定尺度 目的変数として,人生満足感を測定した。生活満足度尺度Aの3項目を用いた。全国高齢者パネル調査の第1波調査の平均値と標準偏差を基準に,T得点(M=50; SD=10)を算出し,分析に用いた。説明変数として,経済満足度,日常生活基本動作,子どもとの同居(0=非同居,1=同居),社会活動,ソーシャルサポートを測定した。値が高いほど,経済状況に満足し,自立して生活し,社会活動に頻繁に参加し,サポートを多く受けていることを意味する。共変量として,死別時年齢,性別(0=女性,1=男性),教育歴を測定した。
 分析手続き マルチフェーズ成長モデルを推定した(Figure)。配偶者との死別を経験した年を0として,死別以前/以降の時間(-19~18年)を算出した。モデルは次のように定義した;Life satisfaction ti=B0i+B1i(time to/from widowhood ti)+B2i(transition to widowhood ti)+B3(post widowhood ti)+B4(time to/from widowhood ti×post widowhood ti)+e ti。死別年の変量効果を仮定したものの,変量効果は統計的に有意ではなかったため,死別直前の切片,傾き,死別1年後の切片にのみ変量効果を仮定した。
 次に,死別以前における時変の共変量と説明変数の平均値を算出し,モデルに投入した。なお,子どもとの同居は,死別直前の調査参加時の値を用いた。
結果と考察 Tableにモデルの推定結果を記した。平均的には,死別以前に人生満足感は低下し,死別1年後は,死別直前に比べて,人生満足感は低かった。すなわち,死別以降では,死別以前と同程度には人生満足感は回復せず,配偶者との死別は幸福感に悪影響を及ぼすことが示唆された。
 次に,死別以前の資源の影響に関しては,死別直前では,経済状況に満足し,自立して生活し,サポートを多く受けている者は,人生満足感が高かった。
 死別1年後では,経済状況に満足せず,子どもと同居している者は,人生満足感が高かった。
 死別以降では,経済状況に満足し,子どもと同居している者は,人生満足感の低下が緩やかになった。
 死別以降の適応のみを促す資源は認められず,良好な経済状況と子どもとの同居は,適応と不適応の両方を予測することが示唆された。すなわち,経済状況が良好な者は,死別直後に人生満足感を低く報告する一方,その後人生満足感の回復を示した。また,子どもと同居した者は,死別直後に人生満足感を高く報告する一方,その後人生満足感の悪化を示した。
 経済状況や家族関係といった資源は,死別以降の適応を促す一方,資源自体の変化にいかに適応するかも課題になると考えられる。
謝辞 東京大学社会科学研究所付属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから「老研—ミシガン大学 全国高齢者パネル調査(東京都健康長寿医療研究センター研究所(委託時: 東京都老人総合研究所,ミシガン大学))」の個票データの提供を受けました。

キーワード
死別/縦断/ライフイベント


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