発表

1C-063

発達初期における気質と感覚運動機能
大規模縦断研究を通してなだめ方とRough-and-Tumble Playの効果を探る

[責任発表者] 中川 敦子:1
[連名発表者・登壇者] 宮地 泰士#:2, 松木 太郎:1, 鋤柄 増根:3
1:名古屋市立大学, 2:名古屋市西部地域療育センター, 3:公立小松大学

【背景】 
これまで我々はRothbartらの気質モデルに従い,発達初期における気質と,なだめ方や遊び,とくに"Rough-and-Tumble Play"との関連を調べてきた(中川・鋤柄,2010; Nakagawa & Sukigara,2014)。これらの研究では,乳児の注意解放を促すなだめ方(何か目新しいものを呈示する)やRough-and-Tumble Play(RTP: 追いかけっこや,くすぐりあいのような笑い声やスキンシップを伴う活動性の高い身体遊び)の頻度が,気質発達に及ぼす影響を検討した。RTPは遂行機能の発達に必須であると考えられており(Panksepp, 1998),また,前述のような乳児期に新たな対象を視覚呈示するなだめ方は,定位注意の役目を補助して遂行注意が働くことを促すと考えられている(Rothbart et al., 2012)。一方,気質と感覚運動機能の関連については,以前より感覚運動機能の未熟な小児は,RTPなど様々な運動や活動に常に苦手意識と拒否感を抱きやすく,自己評価の低さやそれに伴う情緒的な問題を引き起こしやすいことが知られている(Jongmans, 2000)。また,親側についても,感覚運動機能の低い児を持つ親は子どもに対して叱責や育てにくさを感じるといったネガティブな養育スタイルをとりやすくなることが報告されており(瀬野ら, 2012),そうした親子関係の不調和が子どもの気質の発達に影響することは十分予想できる。そこで本研究では,環境省エコチル調査(同一の対象者群をから胎児期から13歳に達するまで継続的に観察・測定して,化学物質曝露をはじめとする環境因子が子どもの健康に与える影響を明らかにする大規模縦断研究)の愛知ユニットセンターの追加調査に加わり,これらについて検討した。なお,本研究は環境省と名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会から承認を得ている。
【方法】
手続き エコチル調査愛知ユニットセンターにおいて,追加調査のリクルートは出産予定の方を対象に平成24年4月から開始しており,本研究では同意を得た方3000名のお子さんが月齢6か月になった時点から質問票送付を開始した。参加者の基本属性,周産期のアウトカム,および出生後の子どもの発達に関するデータは,全体調査から提供を受け,調査IDによる匿名連結化を行い解析した。
対象者 早産児(在胎週数37週未満),運動発達に影響を与える可能性のある基礎疾患(先天症候群,筋肉神経疾患,重篤な心疾患など)を持つことが判明している児を除外して,月齢6か月で2403名(女1142名, 男1161名)を対象とした。
質問紙 月齢6か月追加調査の内容は,IBQ-R日本版の短縮版,遊び3項目とあやし方に関する2項目, 感覚運動機能に関するチェックシートである。感覚運動機能に関するチェックシートは,寝返りの頻度とそのパタン,リーチング,抱かれた時の力の入れ具合,視性立ち直り反射について,選択肢形式で問うものであり,乳幼児の発達臨床に詳しい療育機関医師らが作成した。月齢24か月追加調査では,ECBQ日本版の短縮版によって気質を測定した
【結果】
月齢6か月の気質(高潮性,負の情動,定位),感覚運動機能,遊び,なだめ方が月齢24か月の気質(高潮性,負の情動,エフォートフル・コントロール)に及ぼす影響をパス解析により検討した。月齢6か月の全ての変数をを外生変数とし,月齢24か月の気質の得点を内生変数として用いた。分析には統計パッケージの Amos (ver.22) を用いた。
パス係数をTable 1に示す。運動に関する変数では,月齢6か月の寝返り,リーチング,抱かれた時の力の入れ具合から,月齢24か月の負の情動への有意な負のパスが認められた。また,月齢6か月の抱かれた時の力の入れ具合と視性立ち直り反射から,月齢24か月のエフォートフル・コントロールへの有意な正のパスが認められた。一方,RTPの個数とあやし方では,月齢6か月のRTPの個数から月齢24か月の高潮性への有意な正のパスが認められた。
【考察】
今回の結果により,気質と感覚運動発達には関連性があることが確認された。子どもの感覚運動機能の向上を促すことが,いわゆる育てにくさにつながる児の負の情動を低減すること,前庭系の働きが良好であることが高いエフォートフル・コントロール得点につながることが示唆された。しかし,月齢6か月の時点では,一般の児であってもできることに限りがあるため,本調査では感覚運動機能の個人差が明確にならなかった可能性もある。また,RTPと高潮性の関連については,乳幼児期の高潮性による探索行動は,自己制御の学習に結び付く適度な恐怖の経験を生む (Putnam, 2012) と解釈できるかもしれない。
今後もデータを蓄積しながら,乳幼児理解の基礎知識の一助としていくことや,発達予後との関連についてもさらに検討を重ねていく予定である。なお,本研究の見解は発表者らの見解であり,環境省の見解ではない。
【謝辞】本研究はJSPS科研費(16H037330001)の助成を受けた。

キーワード
気質/運動/取っ組み合い遊び


詳細検索