発表

1C-062

発達障害者の自己理解とそれがどのように安定した就労へつながるのか

[責任発表者] 水本 亜季:1
1:関西大学

問題と目的 近年,発達障害者の就職率は上昇傾向にあるが(日本学生支援機構,2017),一方で,一般求人での職場定着状況は低い状態にある(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター, 2017)。発達障害者が安定した就労を継続するために必要なものとして松為(2014)は,自分の得意・不得意分野を実体験として理解し,他者に説明することの重要性を指摘している。そこで本研究では,発達障害者の自己理解に焦点を当て,複線径路等至性モデル(Trajectory Equifinality Model : TEM)を用いて分析し,何が発達障害者の自己理解につながり,それが就労にどのように影響しているのかを検討する。
方法 研究協力者の選定 研究協力者は一般就労で最初の就労が6年続き,いくつかの転職を経て現在の就労に至った男性X(26歳)を選定した。Xは中学1年生時に医療機関を受診し,WISC-Ⅲの検査を受け(VIQ87,PIQ108,FIQ97),広汎性発達障害であると診断された。
 データの収集方法 本研究は関西大学大学院心理学研究科研究・教育倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号#105)。研究対象者とその母親の同意を得て半構造化面接を行い,逐語録を書き起こしたものに加え,研究協力者の医療記録を本研究のデータとした。
 分析手順 逐語録に書き起こしたインタビューデータを意味のまとまりごとに分類し,最小データとした。それぞれ研究対象者・母親・医療記録を時系列に照らし合わせて分析を行った。
結果と考察 Xの就労が現在の安定したものへと変容していくプロセスをXの自己理解に焦点を当てて4期に区分した。第4期では,最初の就労で,職場の環境や人間関係が社会的方向づけ(SD)となり持続困難な状況であった。一方,注意集中困難に対する投薬や元社長への信頼が社会的助勢(以下SG)となりその職場に留まっていた。辞めようとするが思い留まるという分岐点(以下BFP)を何度か繰り返しながらも就労を継続していたが(Figure 1),身近なモデルである兄が仕事を辞めたことがSGとなり,X自身も退職するというBFPに至る。その後も別の会社に一度就職するものの一回目の就労での経験がSGとなり,自分の特性と合わないと感じてすぐに辞めた。また,現在の職場でも本来ならローテーションで替わっていくところ,上司に今の仕事内容の方が自分の力を発揮できると伝え,同じ仕事を続けている。仕事にやりがいも感じ,1年以上就労が持続していることからXが断薬し,自分に合った職場環境に整えながら就労を安定させていることを等至点とした(Figure 2)。
 Xは自分に合った仕事内容を理解しており,それを周りに伝えることで就労を安定させている。最初の就労で仕事をなんとかこなす中,自分に合ったやり方を習得していった。その経験が就労に必要な自己理解に繋がったと言える。さらに二度の就労では,経験からその仕事が自分に合うかを比較的早く判断するようになっている。そのことから,一度経験したことに関しては自己理解へと移行しやすいと言える。発達障害者への就労支援では,自分の特性を理解するだけでは不十分であり,周りにどのような環境であれば自分の力が発揮できるかを伝える必要がある。また,そのような能力は経験を通じで培われると言え,さまざまな経験ができる環境を与える必要がある。
引用文献 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター(2017). 障害者の就業状況等に関する調査研究 Retrieved from www.nivr.jeed.or.jp/download/houkoku/houkoku137.pdf (2019年1月25日)
松為 信雄 (2014) . 自閉症スペクトラムに対する就労支援の今後 特別支援教育研究, No.680, 16-19
日本学生支援機構 (2017) . 平成29年度大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果 Retrieved from http://bit.ly/nisshin2019a (2019年1月25日)

キーワード
発達障害/就労/復線径路等至性モデル


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