発表

1B-076

高校移行にともなう発達は差次感受性仮説にしたがう

[責任発表者] 飯村 周平:1
1:東京大学/日本学術振興会PD

【問題・目的】
 学校移行に関する研究の視点は,どのようなリスクをもつ生徒がストレスフルな学校移行によって否定的な影響を受けやすいのか,であった。発達的なリスクの特定にあたっては,これまでに民族的マイノリティ,性別,両親の学歴,世帯年収などの要因が取り上げられてきたが,それらの効果については研究間で一貫していない(for details, see Benner, 2011)。
 あるリスク要因をもつ個人がストレスフルな経験から脆弱性を高めるメカニズムは,素因-ストレスモデル(Monroe & Simons, 1991)で検討可能であるが,近年ではその再考が求められている。その再考とはつまり,環境変化などのストレッサーの影響を受けやすい個人は,ネガティブな環境下では脆弱性を発達させるが,ポジティブな環境下ではその利益を享受しやすいというものである。こうした個人と環境の関係は,Belsky(1997)が提案した差次感受性仮説で説明され,それを支持する研究知見が蓄積しつつある。
 この仮説にもとづけば,従来リスクが高いとみなされていた感受性の高い生徒は,学校環境の変化をネガティブに知覚していれば脆弱性を高め,一方で学校環境の変化をポジティブに知覚していれば望ましい方向に発達するだろう。本研究では,高校移行(学校環境の変化)と発達の関係を適切に理解するために,高校移行にともなう発達が差次感受性仮説にしたがうことを実証する。

【方法】
 研究協力者と手続き:調査会社の協力のもと,高校移行前後で2時点の縦断調査を実施した。1時点目の調査は移行前の3月に実施され,中学3年生412名(女子206名)が参加した。2時点目は移行後の5月であり,高校1年生344名(女子170名;参加減衰率17%)が参加した。
 尺度構成:学校環境の変化に対する感受性を測定するため,Highly Sensitive Child Scale日本語版(岐部・平野,in press)を1時点目に用いた。中学校から高校への主観的な学校環境の変化を測定するため,知覚された学校環境変化尺度(飯村, 2019)を2時点目に用いた。学校移行前後での精神的健康の変化を測定するため,WHO-5精神健康状態表簡易版日本語版(Awata et al., 2007)をすべての時点で用いた。
 倫理手続き:本研究は,所属機関の倫理審査委員会によって承認されている。

【結果】
 学校環境の変化を受けやすい気質的特性を測定するHighly Sensitive Child Scaleの得点にもとづいて,潜在プロファイル分析により生徒のクラスタを抽出した。その結果,高感受性群(43%),中感受性群(42%),低感受性群(15%)がそれぞれ特定された。この感受性クラスタごとに,知覚された学校環境の変化を独立変数,高校移行前後における精神的健康の変化得点を従属変数として回帰分析を行った。Figure 1は感受性クラスタごとの回帰直線を示している。
 高感受性群の生徒は,学校環境の変化の知覚がネガティブであるほど精神的健康を低めるよう発達したが,学校環境がポジティブに変化したと知覚された場合には精神的健康が高まった(β = .31, p < .001)。対照的に,低感受性群の生徒は,学校環境の変化の影響を受けにくかった(β = .19, p = .280)。これらの知見は,差次感受性仮説を支持している。

【考察】
 本研究の知見は,高校移行と発達の関係が,従来的な素因-ストレスモデルではなく,差次感受性仮説によって適切に説明できることを示唆した。従来脆弱とみなされていた被影響性の高い生徒は,より正確には,望ましい学校環境下でその利益をより享受しやすい。つまり,高い感受性をもつ生徒の発達は,ポジティブおよびネガティブな環境において"for better and for worse"という特徴を示す。研究者たちは高校移行によって悪影響を受ける生徒に注目してきたが,高校移行と発達の関係を適切に理解した教育政策や支援を検討するためには,差次感受性仮説の視点が求められる。

【主要引用文献】
 Belsky, J. (1997). Variation in susceptibility to rearing influences: An evolutionary argument. Psychological Inquiry, 8, 182-186. doi: 10.1207/s15327965pli0803_3
 Benner, A. D. (2011). The transition to high school: Current knowledge, future directions. Educational Psychology Review, 23, 299-328. doi: 10.1007/s10648-011-9152-0

Figure 1. 感受性クラスタごとの回帰直線

キーワード
差次感受性/学校移行/HSP


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