発表

1B-075

過去を想起することと思い出を語ることの違い
高齢者における回想の質と適応との関連について(22)

[責任発表者] 野村 信威:1
1:明治学院大学

 【目 的】
 高齢者に過去を語るように促すことで様々な心理的効果を導く対人援助手段である回想法 (Reminiscence Therapy) は,高齢者に関する様々な場面で広く実践されている。その一方日常場面における頻繁な回想は抑うつをもたらす可能性も指摘されている。こうした問題に対して野村(2009, 2010)は「回想のモダリティ」という概念を提案し,日常場面で「ひとりで行われる過去の想起」である個人内回想と「他者に過去を語る行為」である対人的回想を区別して測る尺度を作成してその意義を検討した。本研究では,web調査により個人内および対人的回想の性差と世代差を検討する。
 【方 法】
調査対象者および手続き マーケティング・リサーチ会社にweb調査モニターの登録をしている日本全国に在住する18歳以上の成人を対象として匿名によるweb調査への回答を依頼した。調査対象者は成人前期群505名 (男性258名, 女性247名, 年齢範囲18-39歳),中年群511名 (男性257名, 女性254名, 年齢範囲40-59歳) ,老年群416名 (男性212名, 女性204名, 年齢範囲60-79歳) であり,全体で1432名 (男性727名, 女性705名, 年齢範囲18-79歳) だった。
質問紙 本研究の分析に用いた尺度は以下の通りである。
 個人内および対人的回想尺度(野村, 2009, 2010)は過去の想起と他者に語られる回想を区別して測定するいずれも5件法3項目からなる尺度である(項目例:あなたは一人でいる時にどれ位頻繁に過去を思い出しますか)。肯定的回想尺度と否定的回想尺度(野村・橋本, 2001)は回想にともなうポジティブまたはネガティブな感情の程度を測定する尺度であり(項目例:過去を思い出すと心がやすらぐ),本研究では各5件法6項目からなる短縮版を用いた。
 心理的適応(well-being)の指標には,人生満足度 (SWLS; Diener et al.,1985; Uchida et al., 2008) と自尊感情度 (RSE;Rosenberg, 1965; 山本ほか, 1982) を用いた。
 【結 果 お よ び 考 察】
 性別および世代(成人前期,中年期,老年期)を主効果とする2要因分散分析を調査に用いたすべての指標に対して行った。その結果,性別による有意な効果は対人的回想で認められ(F(1,1426) =5.53, p<.05),女性は男性よりも回想を他者に語ると考えられた。また世代による有意な効果は個人内回想(F(2,1426)=9.18, p<.001)と肯定的回想(F(2,1426) =8.94, p<.001)と否定的回想(F(2,1426) =19.66, p<.001)で認められた。Tukey法による多重比較から,老年群は成人前期群と比べて過去を想起する頻度は少なく,より多くのポジティブな感情が回想にともない,ネガティブな感情がともなう程度は少ないと考えられた。また性別と世代による交互作用は個人内回想(F(2,1426) =2.62, p<.10)と肯定的回想(F(2,1426) = 2.99, p<.10)において有意傾向が認められた。
単純主効果の検定の結果,個人内回想は老年期では性差が有意傾向で認められ(F(1,1426) =3.35, p<.10),高齢女性は男性よりも過去を想起する程度が少ない傾向があるが,若い世代では性差はなかった。また男性では世代による個人内回想の程度に差はなかったが,女性では有意な世代差が認められ(F(2,1426) =10.57, p<.001),高齢女性は若い世代の女性よりも過去を想起する頻度が少なかった(Figure1参照)。
 使用した指標間の相関係数を算出したところ(Table1参照),個人内回想は否定的回想(r=.456, p<.001)や自尊感情度(r=-.278, p<.001)との間で有意な正または負の相関が認められた。その一方対人的回想は肯定的回想(r=.391, p<.001)や人生満足度(r=.198, p<.001)と正の相関が認められた。ただし老年群では弱い相関が個人内回想と肯定的回想で認められた(r=.215, p<.001)。この結果から過去を想起することではなく思い出を他者に語る行為が回想におけるポジティブな感情や良好な心理的適応と関連すると考えられた。
 【引 用 文 献】
野村信威(2010)高齢者における回想の質と適応との関連について(18)-回想のモダリティ: 回想が心理的well-being に及ぼす影響 日本パーソナリティ心理学会第19 回大会発表論文集, 52.
 本研究は2018年度科学研究補助金 (基盤研究(B)課題番号:16H02837 研究代表者 楠見 孝) により行われた。

キーワード
回想,回想法/ライフレビュー/高齢者


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