発表

1B-073

高齢者の認知機能と唾液中テストステロン濃度の関連

[責任発表者] 廣川 空美:1
[連名発表者・登壇者] 春日 彩花:2, 権藤 恭之:2, 大森 慈子:3, 増井 幸恵:4, 中川 威:5,6, 小川 まどか:4, 石岡 良子:7, 稲垣 宏樹:4
1:梅花女子大学, 2:大阪大学, 3:仁愛大学, 4:東京都健康長寿医療センター研究所, 5:日本学術振興会特別研究員, 6:国立長寿医療研究センター, 7:慶應義塾大学

目 的
 テストステロンと認知機能との関連性についての先行研究では,高齢の男性おける記憶,注意,言語,空間知覚との関連が示されている(Giagulli et al., 2016).日本人対象の研究では,血清中テストステロンが低い前立腺がんの患者において,認知機能が低いことが分かった(Okamoto et al., 2015).しかし,一貫した結果は示されていない(Boss et al., 2015).本研究の目的は,高齢者の認知機能と唾液中テストステロン濃度との関連性について検証することである.

方 法
対象者 本研究では,2010年のSONIC研究に参加した70歳代の高齢者男女1000名のうち,唾液サンプルを得ている参加者197名のMontreal Cognitive Assessment (MoCA: Fujiwara et al., 2010)得点に基づいて対象者を選定した.対象者の選定基準は,軽度認知症(MCI)のリスク要因である糖尿病病歴がなく,HbA1C8.5%未満とし,MCIを疑うとされる基準値25点以下の男性15名,女性17名と,正常範囲である26点以上の男女各20名の計72名であった.このうち脳卒中の既往歴のある女性2名と欠損1名を除外し,69名(男性35名,女性34名)(平均年齢=69.97±0.86,69~72歳)を分析対象とした.
認知機能検査 MoCA(Fujiwara et al., 2010)は視空間・遂行機能,命名,記憶,注意力,復唱,語想起,抽象概念,遅延再生,見当識からなるMCIをスクリーニングする検査で,25点以下でMCIを疑う.感度80-100%,特異度50-87%である(Nasreddine et al., 2005; Fage et al., 2015).
唾液中テストステロン 起床時直後の唾液を採取し,回収後冷凍保存した.テストステロン値はECLIA法を用いて検出し(SRL),検出下限値は0.03ng/mLであった.信頼性を検証するため,男女各10名の起床後30分以内の値についても測定し,t検定を用いて検討した結果,有意な差は見られなかった.分析対象者のうち,起床直後の検体からテストステロンの検出ができなかった男性5名と女性1名は起床後30分以内の検体の値を用いた.対数変換後の値を算出して用いた.
調整変数 身長と体重からbody mass index (BMI)を算出した.喫煙習慣について,現在喫煙者と過去の喫煙者は喫煙習慣ありとした.飲酒習慣は現在飲酒習慣ありを選択した.心臓疾患,がん,高血圧,高脂血症の既往歴を用いた.認知症の既往歴がある者はいなかった.性とMCI群との関連を表1に示す.これらの変数のうち,MoCA得点と有意な関連を示したBMIと年齢を調整変数として用いた.
倫理的配慮 本研究の実施については,大阪大学人間科学部の倫理審査を受けて実施した.

結 果
 テストステロン値について性と認知機能群のニ要因分散分析を行った結果,有意な主効果は見られなかったが,性と認知機能群の交互作用に傾向が示された(F(1, 65) = 3.53, p = 0.065, ηp2 = 0.052).BMIと年齢で調整すると有意な交互作用が示された(F(1, 63) = 4.09, p = 0.047, ηp2 = 0.061)(図1).Bonferroni検定の結果,女性において低群の方が高群よりも値が高いことが示された.起床直後のデータのみに限定して解析を行った場合も同様の傾向であった.

考 察
 高齢男性ではテストステロン値が低いほど認知機能も低く,認知症のリスクが高いことが示されている(Wahjoepramono et al., 2016)が,本研究では女性において逆の傾向が示された。閉経後の女性(Bojar et al., 2017)及び中高年女性を対象とした研究(Thilers et al., 2006)と同様の結果であり,閉経後の女性ではテストステロンが認知機能の低下に影響する可能性も指摘されている(Bojar et al. 2017).しかしテストステロンとの関連については一貫しておらず,今後大規模な縦断研究による検証が必要である.

キーワード
高齢者/認知機能/唾液中テストステロン


詳細検索