発表

1B-070

乳児の学習における顕示手がかりと注意手がかりの効果比較

[責任発表者] 奥村 優子:1
[連名発表者・登壇者] 鹿子木 康弘:2, 小林 哲生:1, 板倉 昭二:3
1:NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 2:追手門学院大学, 3:同志社大学

目 的
 ナチュラル・ペダゴジー理論によると,乳児の学習は他者のコミュニカティブな意図を示す顕示手がかりによって促進される (Csibra & Gergely, 2009)。しかし,近年,ナチュラル・ペダゴジー理論に反する証拠も報告されており,顕示手がかりは他者のコミュニカティブな意図を伝えるのではなく,単に乳児の注意を引くだけであると主張する立場もある (Szufnarowska et al., 2014)。奥村ら (2018) は,顕示手がかりと注意手がかりの効果の違いをみるために,視線追従行動だけでなく,その行動の結果としての学習の効果である物体学習テスト (物体処理と物体選好) に着目し,各手がかりの効果を比較した。具体的には,注意手がかりとして実験者が首を左右に揺らすShivering手がかり,顕示手がかりとして乳幼児向け発話 (IDS) 手がかりを用いた。さらに,IDSとの音声モダリティを統制するために,コミュニカティブな要素を含まないビープ音 (Beep) を注意手がかりとして用いた。その結果,視線追従テストにおいては,Shivering,Beep,およびIDS手がかりがあると,こうした手がかりがないベースラインに比べて,乳児は実験者の視線方向をより追従していた。一方,物体学習テストにおいては,IDS手がかりがあると,乳児の物体処理,物体選好ともに促進されていたが,Shivering及びBeep手がかりではそうした効果はみられなかった。これらの結果から,顕示手がかかりは注意手がかりよりも乳児の学習に効果的であると考えられる。
 しかし,上述の研究では,IDSとBeep条件では音声モダリティは統制されている一方で,視覚刺激の違いが統制できていない。具体的には,IDS条件では話者の口が動いていたが,Beep条件では口の動きが含まれていなかったため,そうした視覚刺激の違いが,2つの手がかりの効果の違いを生み出した可能性がある。そこで,本研究では,IDS手がかり条件の音声モダリティ及び視覚刺激を統制した注意手がかり条件として,話者の口の動きを含んだ上でビープ音が提示される条件 (Mouth-moving Beep) を設定した。また,顕示手がかりとして用いたIDSの効果の頑健性を確認するために,別の参加児でIDS条件の再現実験も行った。

方 法
参加者:各条件に9ヶ月児20名が参加した (合計40名)。
手続き:
視線追従テスト
 女性実験者が2つのうちの1つの物体 (ターゲット物体) に視線を向ける映像を提示し,乳児が視線追従するかどうかを記録した。実験者が正面を向いている際にIDSあるいはビープ音を提示し,その後,実験者は視線を物体に向けた。IDSとビープ音の提示タイミングと長さは,同等であった。IDS及びビープ音が提示されている際に実験者の口は動いており,視覚刺激はIDSとMouth-moving Beep 条件で同じであった。
物体学習テスト
1) 物体処理テスト:2つの物体のみが映る映像を提示した。注視時間から,ターゲット物体の情報処理の程度を分析した。この指標では,ターゲットでない物体への注視 (新奇選好) の程度が,ターゲット物体を学習していることを意味する。
2) 物体選好テスト:実験者は,実際の物体を乳児に提示し,乳児が最初に触った物体を選好した物体とみなして分析した。

結 果
 視線追従テストにおいて,IDS再現条件,Mouth-moving Beep条件ともに乳児はチャンスレベル以上に実験者の視線方向を追従していた (ps < .05)。
 物体学習テストにおいて,IDS再現条件では,乳児の物体処理,および物体選好ともにチャンスレベル以上の成績であり,ターゲット物体に対する学習効果が確認された (ps < .05)。一方,Mouth-moving Beep条件においては,乳児の物体処理,物体選好はともにチャンスレベルと変わらず,促進効果はみられなかった (ps > .250)。

考 察
本研究の結果は,1) 音声モダリティ及び視覚刺激を統制しても,注意手がかりと顕示手がかりに学習効果の違いがみられること,2) IDS再現条件においては,IDS手がかりがあることによって,乳児の物体処理や物体選好が高められることを再確認した。これらは,奥村ら (2018) の結果を補強するものである。そして,これまでの一連の研究結果を合わせると,乳児の注意を引く手がかりでは物体学習までの効果はなく,コミュニカティブな要素を持つ顕示手がかりが,注意手がかりよりも乳児の学習に深く影響を与えることがわかる。本研究は,二つの理論を代表する手がかりの効果の違いを明らかにし,ナチュラル・ペダゴジー理論に関する論争に決着をつけるものである。

引用文献
Csibra G. & Gergely G. (2009). Natural pedagogy. Trends in Cognitive Sciences 13 148–153.
奥村優子・鹿子木康弘・小林哲生・板倉昭二 (2018). 乳児の学習における注意手がかりの効果. 日本心理学会第83回大会.
Szufnarowska J., Rohlfing K.J., Fawcett C., & Gredebäck G. (2014). Is ostension any more than attention? Scientific Reports 4 5304.

キーワード
乳児/視線/ナチュラル・ペダゴジー


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