発表

1A-069

対人場面における高齢期の感情情報処理
認知機能との独立性の頑健さの検証

[責任発表者] 田渕 恵:1
[連名発表者・登壇者] 坂田 陽子:2, 三浦 麻子:3
1:中京大学, 2:愛知淑徳大学, 3:大阪大学

目 的
 対人場面における情報処理を事象(event)/感情(emotion)の2側面に区別する理論は多く,例えば「心の理論」でも,他者の状況を推測し理解する事象情報処理と,他者の感情を推測する感情情報処理に区別される。
 高齢期の「心の理論」研究では,事象情報処理と認知機能との関連が報告されている(e.g. Moreau, et al. ,2015)一方で,感情情報処理と認知機能との関連を調べた研究は少ない。その中で,Bottirolia, et al.(2016)は,高齢期の感情情報処理と認知機能は関連しないことを報告し,事象/感情の2側面が必ずしも同様に認知機能低下の影響を受けない可能性を指摘している。また発表者らは,Bottirolia, et al.(2016)とは異なる感情情報処理の測度を用いて高齢期の感情情報処理と認知機能との関連を調べたところ,無相関(r = -.001, p = .99)であるという結果を得た(田渕・坂田・三浦, 2018日心)。
 本研究ではこの結果が頑健かどうか,異なる方法を用いて検討した。具体的には,先行研究では対面による個別調査を行ったが,本研究では対象人数を増やし,質問紙法による調査を行った。

方 法
【対象者】日本能率協会総合研究所の調査モニター(70-90歳)を対象にファックスで調査票を発送し,協力を依頼した。高齢者100名(男女各50名,平均年齢78.73±5.13,年齢区分70-74歳23名,75-79歳27名,80₋84歳35名,85₋90歳15名)から回答を得た。
【調査項目】感情情報処理:発表者らの先行研究と同様の,対人場面での文脈判断と相手の感情・意図理解能力を測定する「比喩・皮肉テスト」10項目(安立ら, 2006)を用いた。比喩得点(5項目;0-5点)は字義通りではなく文脈から事実と相手の意図を判断する能力,皮肉得点(5項目;0-5点)は肯定的な感情表現から,相手の否定的な感情を判断する能力とされる。比喩得点と皮肉得点の合計を比喩・皮肉得点とした。認知機能:発表者らの先行研究では認知機能を測定するテストMoCA-J(鈴木・藤原, 2010)を用いたが,この方法は質問紙調査には適さないため,MoCA-Jとの基準関連妥当性が報告されている「主観的物忘れ」の質問を用いた。「物忘れで日常生活に問題がありますか」という教示文に対し3件で回答させた。併せて,認知機能測定のための「基本チェックリスト(厚労省)」28項目中のうち認知機能評価の3項目(はい,いいえの2件法で回答)を使用し,物忘れ,実行機能障害,見当識障害の自覚が無い者を認知機能高群,いずれか1つでも自覚がある者を低群とした。

結果と考察
 感情情報処理,認知機能指標の記述統計量は,比喩・皮肉得点8.76±1.58(range; 2-10),主観的物忘れ1.87±0.61(1-3)であり,認知機能高群57名,低群43名であった。
 認知機能高・低群×主観的物忘れの3種の回答の2×3の人数のクロス表に基づきχ2検定を行ったところ,認知機能高・低群間で主観的物忘れの人数比率に差があり(χ2(2) = 11.01, p = .01),高群で物忘れが「めったにない」と回答した人数(n = 20)の比率は低群(n = 6)よりも有意に高く(p = .01),高群で「よくある」と回答した比率(n = 2)は低群(n = 11)よりも有意に低かった(p = .02)。この結果から,2種の認知機能課題は正の関連が認められることが分かった。
 感情情報処理と認知機能の独立性を確認するため,「基本チェックリスト」の認知機能高・低群間での比喩・皮肉得点の差の検定を行ったところ,高群(8.77±1.29)と低群(8.74±1.90)の間に有意差は認められなかった(t(98) = .08, p = .94)。また,性別および学歴を統制した場合の,「主観的物忘れ」と比喩・皮肉得点の相関係数を算出したところ無相関であり(Table1),両者の独立性の頑健さが示された。
 高齢期は認知機能全般が低下するが,対人場面における高齢期の感情情報処理は,認知機能の高低とは独立した処理能力として検討すべきであると考えられる。

引用文献
安立ら (2006) 脳と発達, 177-181. Bottirolia, et al. (2016) Archives of Gerontology and Geriatrics, 152–162. Moreau, et al. (2016). Neuropsychology, 312.鈴木・藤原(2010) 老年精神医学雑誌, 198-202, 田渕・坂田・三浦(2018) 日心82回大会論文集

キーワード
感情情報処理/認知機能/高齢期


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