発表

3A-069

指示された行動の潜時は提示型強化と除去型強化で異なるか?

[責任発表者] 田島 裕之:1
1:尚絅学院大学

目的
 職場において上司から望まれている行動を上司からの指示があるまでなかなか開始しない人は,しばしば「指示待ち人間」と呼ばれ上司からの非難の対象となる。しかし,ある人が指示された行動を指示前にするようになるかどうかには,その人が置かれた環境の行動随伴性が強く影響していると考えられる。大学生を対象とした田島(2018)の実験では,指示された行動をするとネガティブ事象(減点)が回避できる(指示された行動をしないとやがてネガティブ事象が生じる)条件ではその行動が指示前に生じるようにはなりにくかったが,指示された行動をするとポジティブ事象(加点)が生じる条件ではその行動が容易に指示前に生じるようになった,という結果が得られている。しかし,この実験では,ポジティブ事象は指示された行動の直後に生じるようになっていたため,指示された行動をするとポジティブ事象が生じる条件でその行動が指示前に生じるようになったのは,その行動に後続する事象がポジティブであったからではなく,その行動を早めることによってその事象の生起を早めることができたからかもしれない。そこで,本研究では,指示された行動を早めてもポジティブ事象の生起が早まらないようにして,田島(2018)の追試を行った。

方法
 実験の概要について説明を受け,参加に同意した大学生18名(男性11名,女性7名,平均年齢21.3±0.9歳)が実験に参加した。実験参加者の課題は,ディスプレイ右上に表示されている得点をPC(エプソンダイレクト, Endeavor PT110E)のタッチパネルを使って課題終了時にできるだけ多くなるようにすることであった。課題は1セッション30試行で構成され,実験参加者は2セッション繰り返した。
 実験参加者は実験参加順に2名ずつの9ブロックに分けられ,ブロック内でランダムに加点条件または減点回避条件に割り当てられた。加点条件では各試行の開始から3秒後にディスプレイ中央下部にグレーの四角形が表示された。実験参加者が四角形に触れなかった場合は,四角形が表示されてから10秒後に「グレーの部分に触れてください」という指示がディスプレイ中央に表示された。それでも実験参加者が四角形に触れなかった場合は,指示が表示されてから5秒後に四角形と指示が消えて試行終了となった。四角形表示中に実験参加者が四角形に1回でも触れた場合は,その表示から15秒後に四角形が消え,そこに「+5点」と表示されると同時にディスプレイ右上に表示されている得点が5点増加した。「+5点」の表示は2秒後に消えて試行終了となった。なお,初発反応が指示表示前に生じた試行では指示は表示されなかった。各セッション開始時の得点は0点であり,2セッション終了後,各セッション終了時の得点の合計点1点につき1円の現金と500円分のクオカードを実験参加者に支払った。減点回避条件では,各試行において実験参加者がグレーの四角形にまったく触れなかったら,その表示から15秒後に四角形が消え,そこに「-5点」と表示されると同時にディスプレイ右上に表示されている得点が5点減少した。「-5点」の表示は2秒後に消えて試行終了となった。四角形表示中に実験参加者が四角形に1回でも触れた場合は,その表示から15秒後に四角形が消えて試行終了となった。各セッション開始時の得点は150点であった。それ以外は加点条件と同じであった。

結果
 第1セッション第1試行については,グレーの四角形に1回でも触れた人は加点条件では9名中9名,減点回避条件では9名中7名であった。グレーの四角形が表示されてからそれに最初に触れるまでの潜時(それにまったく触れなかった場合は15秒とした)の平均値は,加点条件では10.4秒,減点回避条件では10.9秒であった。ランダマイゼーション検定の結果,この差は有意ではなかった(η2=.007, p=.777)。なお,「グレーの部分に触れてください」という指示が表示される前にグレーの四角形に触れた人は,加点条件,減点回避条件とも9名中4名であった。
 最終試行(第2セッション第30試行)については,グレーの四角形に1回でも触れた人は加点条件,減点条件とも9名中9名であった。グレーの四角形が表示されてからそれに最初に触れるまでの潜時の平均値は,加点条件では7.9秒,減点回避条件では8.3秒であった。ランダマイゼーション検定の結果,この差は有意ではなかった (η2=.002, p=.563)。なお,「グレーの部分に触れてください」という指示が表示される前にグレーの四角形に触れた人は,加点条件,減点回避条件とも9名中3名であった。

考察
 加点条件,減点回避条件とも,指示された行動が指示前に生じるようにはなりにくかった。この結果は,回避行動は,それによって回避できる事象がネガティブなものだからではなく,それがその事象の生起時間に影響しないためにルール支配行動にとどまりやすい(随伴性形成行動に移行しにくい),ということを示唆している。

謝辞
 本研究の実施にあたりご協力いただきました尚絅学院大学総合人間科学部卒業生の中川貴文氏に感謝いたします。

キーワード
行動潜時/指示/行動随伴性


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