発表

2D-062

バブル相場・暴落相場などを用いたバーチャルな投資判断課題の価格チャートが引き起こす認知バイアスの影響の検討
――大学生を対象として――

[責任発表者] 佐野 公俊:1
[連名発表者・登壇者] 丹野 貴行:2
1:明星大学, 2:明星大学

 研究背景
「テクニカル分析」とは,株価チャートなどの時系列分析をもとに投資対象の将来の価格を予想する投資理論の一つである。「ランダムウォーク理論」とは,価格はランダムに変動するため,テクニカル分析を用いても正常と考えられる市場平均収益以上の超過収益を上げることができないとする理論である。このランダムウォーク理論は「効率的市場仮説(以下,EMH)」に基づいており,EMHは市場の情報効率性,売買効率性,投資家の合理性の三つを前提としている。様々な観点からテクニカル分析の有効性は検討されているが,チャートの波形刺激が投資家の判断に与える影響の検討は見当たらない。
 目的
本研究では,テクニカル分析と人間の認知判断との関係性を検討することを目的として,株価チャートの波が参加者の投資判断に与える影響を検討した。株価チャートの形が投資家の判断に影響を与えるのであれば,テクニカル分析と人間の認知機能との関係性を支持し,この認知特性を利用して市場平均収益以上の超過収益を得られる可能性がある。その意味でこれはEMHにおけるアノマリーの存在の示唆となる。また,価格チャートを見たうえで下した二つの判断が互いに同じ売買量であったとしても,その判断の確信の度合いが異なることも考えられる。これらに基づき,本研究の仮説1としてチャートパターンによって売買量に影響が出ること,仮説2として同じく確信度に影響が出ることとした。
 方法
大学生110名(平均年齢20.89±1.17歳,男性68名,女性42名)を対象として質問紙形式の投資判断課題を実施した。刺激材料(実在のバブル-暴落銘柄,実在の上昇-下降銘柄,仮想のランダムな波の上昇-下降銘柄)6銘柄の価格データを1年間分用い,1銘柄につき40日毎に5つの時点(120日目,160日目,200日目,240日目,280日目)で投資判断をさせた。投資判断では,判断時点から40日後の変動の予想(上昇/下降/値動き無し)と売買量(0-10の11件法),確信度(0%-100%の11件法)について回答を求めた。価格変動の予想の正答数(上昇した時点の数・下降した時点の数・変化がなかった時点の数)は均一に統制した。
 結果
変動予想の全回答の正答率はおおよそ1/3となり,実験条件の統制が示された。各時点における変動予想は有意に「上昇」の回答が多い時点,「下降」の回答が多い時点,「変化なし」の回答が多い時点が確認された。各時点における金融商品の売買量については,全回答における平均の95%信頼区間から多い,ないしは少ない方向に逸脱する時点が確認され(Figure 1),これにより仮説1は支持された(例:バブル銘柄では最高値到達後で最も値下がりした時点で有意に売りが多く,暴落銘柄では価格暴落の底値到達後に一拍ついた段階で有意に買いが多かった)。確信度について,平均の95%信頼区間から逸脱する時点は確認されず,仮説2は支持されなかった。
 考察
本研究では投資判断課題においてチャートが及ぼす売買量への影響が観察された。チャートの形が投資家の価格予想や売買量の判断に一定のバイアスで影響を与える事が示された。これはテクニカル分析とヒトの認知の関係性を半ば支持する結果であり,市場平均以上の超過収益を得られるというEMHのアノマリーの存在を示唆するものであった。この現象にはアンカリング効果(Tversky & Kahneman,1974)が関係していると考えられる。アンカリング効果とは,不確かな事態で予測や判断を行わなければならないとき,初期値(アンカー)が判断に影響してしまうという心理的効果である。Tversky & Kahneman(1974)のアンカリング効果を示す回転盤実験において,参加者は提示される数字がランダムだということを知っており,かつ数字が参加者にとって何の感情的意味も持たないという点は本研究と共通している。この点から,本研究の判断課題において過去の価格チャートの印象に残りやすい部分が初期値(アンカー)としての役割を持ったと推測できる(例:過去の最高値-最安値や1万円,2万円など印象深い価格が意識されやすいという点は投資家の経験則としてよく指摘されている)。テクニカル分析の有効性を検討するバックテストや人工市場実験などにおいて,テクニカル分析を行うエージェントは単純なモデル(例:移動平均線の交差による判定)が用いられていることが多いが,価格チャートを基にした意思決定にアンカリング効果が寄与しているとすれば,その外的妥当性は限定的なものであると考えられる。また,確信度評定は状況要因に影響を受けやすく,課題の選択行動そのものや事前の信念が関係している可能性が考えられる。これらの点を考慮して今後の研究ではより一層S/N比の良好な従属変数を選定する必要がある。

キーワード
テクニカル分析/波形刺激/効率的市場仮説


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