発表

2D-061

ラットにおけるストレスレジリエンスと不安様行動・強迫様行動の関連
—週齢と個体差からの検討—

[責任発表者] 上野 将玄:1
[連名発表者・登壇者] 山田 一夫:1, 一谷 幸男:1
1:筑波大学

目 的
 ストレスからの回復力や抵抗性(resilience,レジリエンス)には個人差が存在する。近年の動物研究では,恐怖条件づけの消去を指標として個体のレジリエンスを予測しようとする試みがなされている。我々はこれまでレジリエンスと個体差の観点から,恐怖条件づけの消去を用いて薬物依存やうつ様行動との行動学的関連を検討してきた(Ueno et al., 2017)。本研究では,レジリエンスの個体行動特性を探ることを目的として,効果式十字迷路における不安様行動,ビー玉覆い隠しテストにおける強迫様行動と恐怖条件づけにおける消去能力の個体差との関係を検討した。

方 法
 Wistar-Imamichi系雄ラット45匹を用いた。内訳は若齢群24匹(9週齢),成体群21匹(24-25週齢)であった。
 高架式十字迷路:2本ずつのオープンアーム(10×50 cm)とクローズドアーム(10×50 cm)から構成された。クローズドアームは49.5 cmの壁が付いていた。迷路は実験室の床から47 cm高い位置にあった。被験体をオープンアームの方を向いて置き,5分間自由探索させた。各アームに対する進入回数と滞在時間が実験者によって記録された。進入の定義は,それぞれのアームに四肢がすべて入ることとした。
 ビー玉覆い隠しテスト:白色のプラスチックケージ(58.5 × 38.5 × 16 cm)を用いて実施された。ケージ内には5cmの深さでホワイトフレークが敷き詰められ,その上に明るい緑色のビー玉(直径1.6 cm)が4列に5個ずつ,合計20個置かれた。ケージ内の照度は30 lux以下であった。高架式十字迷路から2日後,被験体をケージ内中央に置き,15分間自由探索させた。15分後,被験体をケージから取り出し,ホームケージに戻した後で覆い隠されたビー玉の数を計測した。覆い隠しの定義として,ビー玉がホワイトフレークに3分の2以上埋まっていることとした。
 恐怖条件づけ:ビー玉覆い隠しテストから2日後,装置馴化のため,被験体を条件づけ装置へ20分間暴露した。翌日,条件刺激(CS)として30秒間のトーン音(65 dB, 10 kHz),無条件刺激(US)として1秒のフットショック(0.7 mA)を用い,ラットに7回対提示することで条件づけを実施した。その次の日から3日間連続で,消去試行として条件づけとは異なる文脈で1日5回,CSのみを単独提示した。5秒以上連続する無動をフリージングと定義し,恐怖反応の指標とした。
行動学的個体差を検討するため,消去試行3日目のCS中フリージング率について中央値を基準として分類した。中央値よりフリージング率が低い個体をレジリエント群,高い個体を脆弱群と分類した。



結 果
 恐怖条件づけの消去に関して,Fig. 1aにレジリエント若齢群(R–Young, n=12),脆弱若齢群(V–Young n=12),レジリエント成体群(R–Adult, n=10),脆弱成体群(V–Adult, n=10)の消去試行におけるフリージング率推移を示す。二要因混合計画分散分析の結果,交互作用[F (6, 80) =3.14, p<.01, ηp2 =.19]が有意であった。脆弱成体群のみ有意な試行の効果がみられなかった。
 各アームに対する進入回数および滞在時間について分散分析の結果,高架式十字迷路における各群の成績に有意差はみられなかった。Fig. 1bにビー玉覆い隠しテストにおける各群の成績を示す。一要因参加者間計画分散分析の結果,群の主効果が有意であった[F (3, 40) =4.72, p<.05, η2 =.26]。Bonferroni法による多重比較の結果,脆弱成体群はレジリエント成体群,脆弱若齢群よりも覆い隠したビー玉数が有意に少ないことが示された(p<.05)。

考 察
 恐怖条件づけの消去について,脆弱成体群では3日間の消去試行を経てもフリージング率の有意な低下が確認されなかった。この結果は,脆弱な個体では加齢によってレジリエンスが低下する可能性を示す。またビー玉覆い隠しテストの結果,脆弱成体群は,相対的に強迫性が低いことが示された。これは,レジリエンスと強迫性の個体差についての関係が加齢を媒介して生じることを示唆している。これらの背景には加齢によって変動する脳内物質の関与などが考えられる。

引用文献
Ueno, M., Yamada, K. & Ichitani, Y. The relationship
between fear extinction and resilience to
drug-dependence in rats. Neuroscience Research, 121,
37-42, 2017.

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