発表

2B-066

バルプロ酸自閉症モデルマウスにおける社会的促進を用いた他個体認知

[責任発表者] 請園 正敏:1,2
[連名発表者・登壇者] 笠原 好之#:3, 吉田 千尋#:3, 村上 由希#:2, 桜田 一洋#:1, 木村 芳孝#:3, 小西 行郎#:2
1:理化学研究所, 2:同志社大学, 3:東北大学

目 的
 社会的促進とは,他者が存在すると,一人で行うときと比べ自身の課題遂行量が増加する現象である。社会的促進は,齧歯類でも古くから検討されており,他個体の存在ただそれだけで特定の行動に促進がみられる。一方,自閉症とは,社会性に障害があり,動物モデルを作成しこれまで生物学的機序について盛んに検討されてきた。しかしながら,行動面での検討は3チャンバー社会的相互作用試験が主な方法であった(Needham et at., 2018)。
 そこで本研究では,以前開発したマウスにおけるリーチング行動を用いた方法論にて,バルプロ酸自閉症モデル動物を用いて,社会的促進に焦点をあて検討した。リーチングとは,食べ物を手で掴み,口に運ぶまでの一連の動作のことを指す。以前の発表で,マウスにおいて,リーチング行動を学習することで他個体が行うリーチング行動に対して注目すること,また,リーチング行動を学習している群に観察されていると未学習群に観察されている状況と比較し,リーチング前の動作として学習させた一回転速度に,社会的促進が生じることが示された。バルプロ酸モデルにおいて,社会的促進が生じるかどうか,また他個体のリーチング行動に注目するかどうかを検討した。

方 法
実験動物 C57BL/6 J雄マウスを47匹,雌マウスを62匹用意し,つがいとさせた。妊娠を確認したマウスにバルプロ酸あるいは生理食塩水を投与し,生まれた雄の個体それぞれ9匹ずつを,バルプロ群,生理食塩水群(以下,生食群)とした。また,観察役として同週齢のマウスを18匹用意した。
装置 装置は透明なアクリル板で作成され,観察用の部屋とリーチング部屋に区切られており,連結部には餌報酬が置かれる板があった。リーチング部屋から連結部には1cmのスリットが設けられ,観察部屋には1mmのスリットを設けた。観察部屋ではスリットが1mmであるため餌報酬の匂いは分かるがリーチングを行うことは出来なかった。一方,リーチング部屋からはスリットが1㎝あるため,前足で餌報酬を掴んで取る(リーチング)ことが可能であった。
手続き 雄雌マウスを一晩つがいとすることで妊娠を成立させ,妊娠12.5日のときにバルプロ酸(600mg/kg),または生理食塩水を投与した。生まれた個体が4週齢のときと8週齢のときに,ナイーヴ個体とオープンフィールドにて社会行動を計測した。8週齢のときに,生食群,バルプロ群,ともにリーチング部屋に入れてリーチングを学習させた。リーチング学習は1日に2セッション行われ,1セッション20試行とし,餌報酬はパスタとした。パスタに対して落とさずリーチングをすることと,リーチング前に一回転する動作を学習させた。全匹とも1セッションで60%以上成功することを学習完了の指標とした。一方で,観察役のナイーヴ個体はそれぞれ9匹学習群と未学習群とし,学習群にはリーチング行動を学習させ,未学習群は観察部屋にリーチング群と同じ時間だけ入れられていた。学習完了後のテストセッションでは,バルプロ群と生食群は,学習群もしくは未学習群のマウスが観察部屋にいる状況で各20試行リーチングを行った。さらに,ナイーヴ個体がリーチング行動を行い,生食群とバルプロ群は観察部屋にてナイーヴ個体のリーチングを20試行分観察させた。
解析 テストセッションの,バルプロ群と生食群の回転速度を計測した。また,ナイーヴ個体のリーチング時にて,観察部屋に入れているバルプロ群と生食群の行動を「対面」「曖昧」「よそ見」の三つに分類し計上した。

結 果
 結果は図1のとおりである。生食群のみリーチング時の回転速度に社会的促進が見られ(t(6) = -3.7, p <.05),バルプロ群のみナイーヴ個体のリーチング行動に対し,よそ見行動が有意に高かった(t(6) = -2.9, p <.05)。また,オープンフィールドでの社会行動の結果では,生食群よりもバルプロ群の方がよりナイーヴ個体との社会行動が有意に高かった(t(6) = -3.6, p < .01)。さらに社会行動について,ナイーヴ個体からか,両群の個体からか,どちらからの接触かを計測したところ,ナイーヴ個体は生食群に対してよりも,有意にバルプロ酸群への接触時間が増加していた(t(6) = -3.1, p < .01)。

考 察
 結果から,バルプロ酸自閉症モデルは,他個体から見られて発生する社会的促進が生じないこと,また他個体の運動への注視が生じないことが示された。一方,オープンフィールドでの結果は,ナイーヴ個体からバルプロ群への接触時間が増加した。バルプロ群とのコミュニケーションがうまくいかない結果として時間がかかった可能性が考えられる。今後,他個体の存在の知覚による行動変容が生じるかどうかを指標とし,ほかのモデルとの比較を行うことで,より妥当性の高い自閉症モデル動物作成が行えるだろう。

キーワード
社会的促進/学習/自閉症


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