発表

2B-065

食物選択動機と主観的健康感および主観的幸福感との関連

[責任発表者] 三村 千春:1
1:淑徳大学

Ⅰ.問題と目的
 食行動は身体的な健康を維持するための手段として着目されることが多い。食生活の乱れは肥満や生活習慣病といった病態につながりやすいことから,人々が健康を維持できる状態が目指され,食行動をコントロールしようという方向性での研究が多く行われてきた。行動変容という視点から人々の食行動様式に着目したものとして,食物選択動機が挙げられる。食物選択動機とは,人々がなぜその食行動を選択したのかという動機のことである。富田ら(1999)は,食物選択動機の構成要素として,栄養と健康,低カロリー,入手の容易さ,感覚的快楽の4つを挙げている。従来の介入では,栄養面に気を遣いながら,カロリーを摂取しすぎないよう食行動をコントロールしようとする動機が高い状態が目指されてきた。このような介入が人々の健康状態維持を目標に行われてきたことを鑑みると,栄養面に気を遣いながら食行動を選択するといった状態には,BMIなどの客観的な数値だけでなく,良好な健康状態や主観的な満足度が伴うことが考えられる。そこで本研究では,人々がなぜそのような食行動を選択するのかといった食物選択動機と,主観的な健康度および主観的幸福感との関連を検討することを目的とする。
Ⅱ.方法
 調査対象者は,A大学の学部生105名(男性34名,女性71名)が質問紙に回答し,不備のなかった102名を分析の対象とした。研究参加者の平均年齢は20.22歳(範囲:19〜24歳,SD=0.68)であった。質問紙は,①フェイスシート(性別,身長・体重,共食頻度,主観的な健康度など),②食物選択動機調査票(富田ら,1999)18項目4件法,③主観的幸福尺度(経済協力開発機構, 2017)26項目から構成した。分析に際しては,尺度間の相関係数を算出するとともに,フェイスシート項目によって群を設定し,尺度得点の比較を行った。
Ⅲ.結果
(1)食物選択動機と幸福感の相関分析 栄養と健康,低カロリーは,幸福感全体と下位因子および健康感との間に有意な相関が見られなかった(Table 1)。入手の容易さは,感情的側面以外の要因との間で負の相関が認められ,感覚的快楽は,ユーダイモニア的幸福との間に正の相関が見られた。
(2)居住形態および性別における食物選択動機尺度の比較 居住形態(一人暮らし・実家暮らし)および性別における,食物選択動機の下位因子得点の差を比較するためにt検定を行った。居住形態においては,入手の容易さの得点において有意差が認められた(t(99)= 1.685, p<.10)。性別においては,低カロリー,入手の容易さの得点において統計的に有意な差が認められた(低カロリー:t(100)=-4.063, p<.01.,入手の容易さ:t(100)=-2.295, p<.05.)。
Ⅳ.考察
 結果1から,栄養面やカロリーを気にかけながら食行動を選択することは,個人の主観的な健康感や幸福感と関連していないことが示された。食行動をコントロールしようとする思い込みが強すぎると,食行動が「不安」や「心配」のもとになってしまうというリスクが指摘されていることからも(Rozin et al.,2003),栄養やカロリーを気にしながら食行動を選択することは,健康的な行動ではあったとしても主観的な健康感や満足感とは直接関連しないと言えるだろう。また,食事の見ためを楽しむなどの動機が高い人ほど,幸福感の一部も高いことが明らかとなった。一方で値段が安い,支度が楽といった入手の容易さでの食行動の選択と,幸福感や健康感の関連が見られたことから,経済的要因や時間的な余裕のなさが食行動を通して幸福感を抱きにくくさせているのか,幸福感の低い者ほど入手の手軽な食品を摂取する傾向にあると考えることができる。結果2からは,一人暮らしをしている学生の方が,実家暮らしの学生よりも食物がいかに容易に手に入るかといったことを重視していたことが示された。また,男性よりも女性の方が低カロリー食であること,入手が容易であるという動機で食物を選択する傾向にあることが示された。
 これらの結果をふまえると,単に栄養のために食物を選択するといった状態ではなく,本人が健康を実感しながら,食行動に満足していけるような状態が目指される必要があるだろう。今回は全体的な幸福感の指標を用いたが,今後は食行動特有の幸福感や満足感を測定できるような尺度を作成し,食物選択動機との関連を検討することが求められる。
Ⅵ.引用文献
経済協力開発機構(2015).主観的幸福を測る OECDガイドライン,明石書店,400-423
富田拓郎・上里一郎(1999).新しい“食物選択動機”調査票の作成と信頼性・妥当性の検討,健康心理学研究,12(1),17-27
Rozin, P., Bauer, R., & Catanese, D. (2003). Food and life, pleasure and worry, among American college students: Gender differences and regional similarities. Journal of Personality and Social Psychology, 85, 132–141

キーワード
食物選択動機/主観的健康感/主観的幸福感


詳細検索