発表

1B-067

コモン・マーモセットの第三者互恵性認識の再現性について

[責任発表者] 中神 明子:1,3
[連名発表者・登壇者] 安江 みゆき:3, 一戸 紀孝#:3, 川合 伸幸:2,3
1:日本女子大学, 2:名古屋大学, 3:国立精神・神経医療研究センター神経研究所

目的
近年,心理学研究における再現性は重要な問題である。2015年のScienceに,心理学実験の100件のうち結果が再現できたものは39%のみであったと報告された。心理学のデータも自然科学と同じようにエビデンスとしての側面を求められるようになってきている。研究結果の再現性が担保できなければ,研究そのものに対する信頼性を損なう。我々はコモン・マーモセットが自身とかかわりのない,第三者の互恵性を認識しうるか否かを検討し,マーモセットでも第三者互恵 性認識が出来ることを明らかにした(Kawai et al. 2014)。その後,2つの研究を行い,第三者互恵性認識課題を用いて種差の検討やモデル動物との比較を行ったが,実験結果は再現性を示した(Kawai et al., 2019, Yasue et al., 2015)。互恵性は,公平感の起源であると考えられる。しかし,ヒトの公平感や正義は「自身がかかわる」事象についてだけではない。自身とは関係のない第三者間のやりとりにおいても公平である,あるいはルールに準拠しているという判断を行う。最近の研究では,フサオマキザルやイヌで第三者に対する互恵性を認識していることが明らかになった(Anderson et al.,2017)。特に他者に対し非好意的にふるまった人物を避けるという負のバイアスを持った行動が見られている。今回は2013〜2018年に3回実施した実験結果に基づき,本研究の再現可能性及び実験の妥当性について報告する。
方法
被験体:国立精神・神経医療研究センター神経研究所で飼育 されているオトナのマーモセット。各実験で使用する個体は4 頭。重複経験を持つため3回の実験で8頭を使用した。
研究時期:1回目:2013年,2回目2015年,3回目2018年。
装置:実験箱としてステンレス製の移動箱(25×20×18.5 cm)とそれを置く台(135×45×cm),および不透明なスクリーンを用いた。箱は,一方がワイヤーメッシュになっており動物は箱の中からヒト演者のやりとりを見ることができた。
手続き:マーモセットは,実験中に不必要な情動の生起させないよう,自発的に移動箱に入るように予め訓練されており,実験者に捕獲されることなく実験室に移動した。マーモセットの入った実験箱の前にスクリーンを設置し,スクリーンを開けて二人のヒト演者が食物をやり取りするシーンを見せた。やり取りのシーンは,ヒト演者がお互いに公平に食物を受け取ったり渡したりする条件(Reciprocal condition)と,Aの演者が食物を独り占めする条件(Non-reciprocal condition)の2種類から構成されていた。各条件は1セッション12試行で,各6セッション行った。互恵・非互恵条件のセションは交互に行われた。ヒト演者が演じるAB の役割と立ち 位置は,セッション間でカウンターバランスをとった。ヒト演者として,2013年はT(男性)・Y(女性)。2015年は T(男性)・Y(女性)・N(女性)の3人。2018年はY(女性)・N(女性)が役割を演じた。実験者に動物は十分馴化していた。
結果と考察
互恵条件では,二人の演者からマーモセットがエサを受け取る割合に差はなく,一方,非互恵条件では,不公平なヒトからエサを受け取る割合を減らした。マーモセットはヒトの演者のやり取りを観察して,不公平なやり取りをしたヒトを回避したことが明らかになった。マーモセットには自分に関係のない第三者のやり取りを見て,自身の行動を変化させるという齧歯類には見られない複雑な社会認知機能が備わっていると考えられる。3回にわたり同様の実験を行い,Reciprocal condition/Non-reciprocal conditionにおける比率をTable1に示した。3回とも非互恵的なヒトからエサを受け取る割合が低く,再現性を示した。この3回の実験では,3人のヒト演者の組み合わせが異なっており,ヒトに対するバイアスによって再現されたわけではなかった。また実験では,ヒト演者の役割(A・B),演者の左右の立ち位置,演技に使用する食物におけるカウンターバランスなどの統制をとった。このうち2回の実験は,1回目の直接追試の形で行われた。実験を2回経験した個体における各条件の平均は,1回目の互恵条件:A=47.8%,B=52.2%,非互恵条件:A=39.1%,B=60.9%であり,2回目の互恵条件:A=52.6%,B=47.4%,非互恵条件:A=40.6%,B=59.4%だった。信頼性の高い研究結果であり,この実験手法がマーモセットの社会認知機能評価のためのテストバッテリーとして,妥当性が高いことも示している。
文献
Kawai N et al., 2014. Marmoset monkeys evaluate third-party reciprocity. Biol Lett 10(5):20140058.
Kawai N et al., 2019. Common marmosets(Callithrix jacchus) evaluate third-party social interactions of human actors but Japanese monkeys(Macaca fuscata) do not. J Comp Psychol.
Yasue M et al., 2015. Indifference of marmosets with prenatal valproate exposure to third-party non-reciprocal interactions with otherwise avoided non-reciprocal individuals. Behav Brain Res 292:323-6.

キーワード
第三者評価/マーモセット/再現性


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