発表

1B-066

行動マネジメントによる禁煙の可能性について

[責任発表者] 中尾 将大:1
1:大阪大谷大学

 目 的
 喫煙は先進国が抱える健康リスクの最大のものである。2009年度の厚労省の調査によると,喫煙による病理のリスクは高く,いわゆる意思のない喫煙となる「受動喫煙」の問題が挙げられた。喫煙は総じて健康リスクのある行動といえるだろう。更に,喫煙は依存的な行動であり,禁煙を行うことは難しいとされる(島井, 1997)。従来の行動療法では,対象者に喫煙をおこなう前に気分が悪くなる薬物を摂取させ,喫煙をした後に気分が悪くなるように介入を行い,禁煙ができるように治療を行っていた。これは応用行動分析学における嫌子呈示による行動の弱化である(杉山, 2005)。最終的に喫煙者をして喫煙行動が起こさせないようにすれば良いのだが,先に挙げた伝統的な方法では喫煙者に心身の苦痛を伴わせることになるだろう。そこで,本研究では,喫煙者に苦痛を伴わない介入方法の可能性を提案し,喫煙者本人が無理なく喫煙行動を減少させる方法を探ることを主たる目的とした。
 方 法
1対象者:大学生 男性1名(21歳)を対象とした。発表者が大学での担当授業「行動分析学」における2018年度の受講者で,自己介入による行動変容の授業中課題に参加していた。
2事前準備:コントロールする行動である「標的行動」を選定した。ここでは「喫煙をする」行動を選定した。そして,行動ダイアグラムを作成し,喫煙行動をする前と後でどのような状況の変化が生じているのか検討した(図1参照)。そして,喫煙行動をカウントするための指標を選定した。今回は行動の「所産」としてのパフォーマンスを採用した。具体的には1日に吸ったタバコの吸殻の数をカウントした。
3ベースラインの測定(6日間):2018年12月中旬より6日間,1日にどのくらいタバコを吸っていたのかを測定した。
4介入1(6日間):ダイアグラムを参考にタバコを吸う代わりに対象者にとって精神的落ち着きをもたらすコーヒーを摂取したり,ガムを噛むようにしたり,行動を変更させた。
5介入2(6日間):コーヒー摂取により逆に喫煙行動が増加したので,コーヒーの代わりにコーラや炭酸飲料摂取に切り替えた。また,自宅では喫煙行動が頻発する自室を避け,喫煙したくなったら,家族が集まるリビングルームに移動してコーラなどの飲料を飲むようにした。更に,外出先等で友人とともに喫煙する機会に遭遇したら,その場を避けるか,禁煙をしていることを伝えてガムを噛むようにした。一連の介入は対象者本人が主体的に実施し,発表者と相談のうえ,発表者が適宜,アドバイスを与えながら進めた。なお,自己介入に関する一連の方法は島宗 (2014)を参考にした。
 結 果
 図1は喫煙の行動ダイアグラムを示す。喫煙をする前と後で状況がどのように変化したのかを示している。図1より対象者はタバコを特に美味しいから吸っているわけではなく,いわゆる「精神的に落ち着く」という効果が喫煙行動を強化していることがわかった。
図2はベースラインから介入2に至るまでの一連のパフォーマンスの結果を連続で示したグラフである。縦軸は吸殻の数,横軸は日数をしめす。ベースライン期における吸殻の平均値は21本であった。介入1における吸殻の平均値は19本であった。介入2では吸殻の平均値は14本となった。また,傾向線をみるとベースライン期から介入2に向けて吸殻の数が減少傾向にあることがわかる。
 考 察
 伝統的な嫌子呈示による行動の弱化(Williams, 1973)という,対象者にとって苦痛を伴う手法を用いなくとも,自己介入による行動マネジメントにより,喫煙行動の修正は可能であることが示された。対象者の内省報告でも「介入中,タバコが吸えないことに対するストレスを感じることはなく,楽しく行動修正を実施できた」とあった。これは発表者の目指した介入による苦痛を低減することに成功したといえよう。しかし,今回の介入では完全な禁煙にまで至ることはできなかった。だが,「介入を継続すれば禁煙ができそうだ」と対象者の内省報告もあり,自己介入による禁煙実現の可能性が期待される。喫煙は依存的な行動でやめることは難しいとされていたが,苦痛なく,手軽に実現できる可能性が示された。

キーワード
喫煙/行動マネジメント/コントロール


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