発表

1A-065

賭け行動に与える事前の勝敗による影響:カジノ顧客のデータ分析

[責任発表者] 阿部 修士:1
[連名発表者・登壇者] 中井 隆介#:1, 柳澤 邦昭:1, 村井 俊哉#:1, 吉川 左紀子:1
1:京都大学

目 的
 カジノ施設におけるギャンブルは,多くの国で観光事業の発展などを背景に,法的・社会的に認知されている。日本でも2018年に,特定複合観光施設区域整備法が成立し,カジノ施設の誘致・整備に向けた動きが加速している。
 カジノ施設の合法化においては,財政収入の増加といったメリットがある一方,ギャンブル依存症の増加が懸念される。こうした社会的課題に対処するには,ギャンブル依存症を発症するメカニズムに関する知見を得ることで,依存症の早期発見や進行・再発防止といった対策を講じる必要がある。
 本研究は,実際に営業中の海外カジノ施設における日本人を含むプレイヤーのプレイデータを収集,分析することにより,人が危険な賭けに至る前の兆候を明らかにすることを目的としている。そこで本研究発表では,繰り返しギャンブルを行う過程で,事前の勝敗が後の賭け行動にどのような影響を与えるかに着目し,カードゲームの一つであるバカラのプレイデータを分析した結果を報告する。

方 法
 海外のカジノ施設におけるバカラのプレイデータの分析を行った。当該カジノ施設では,複数年にわたりバカラの全プレイデータが電子的に保存されている。本研究では匿名化されたデータを用いており,個人の特定は不可能であるが,全データが顧客ID番号と紐づいているため,顧客の賭け行動の詳細な記録を追跡することが可能である。なお,本研究は京都大学心の先端研究ユニットにおける倫理委員会の承認を得て実施した。
 バカラは「banker(胴元役)」と「player(客役)」の,仮想の二人による勝負で,どちらが勝つかを予想して賭ける,トランプを用いたゲームである。ディーラー(ゲーム進行役)により,bankerとplayerにそれぞれ一定のルールに従いカードが配られる。最大3枚での合計数を競い,下1桁の数字が大きい方が勝者となる。banker, playerのいずれが勝者になるかの予想を的中させると,賭け金がおおよそ2倍となる(配当:1倍)。引き分けになる結果のtieに賭けると,高額の配当となる(配当:8倍)。また,最初に配られる2枚のカードが同数となるpairに賭けると,同様に高額の配当となる(配当:11倍)。バカラは1回のゲームが,早ければ数十秒で終わるため,顧客は短時間で相当数のゲームを繰り返し行うことが多い。したがって,事前の勝敗が後の賭け行動にどのような影響を与えるかを検証するにあたり,バカラのデータ分析は有効なアプローチとなる。
 本研究では,2017年4月から2018年1月までの顧客IDの内,1) 年齢が21-80歳,2) 3営業日以上来店,3) 70ゲーム以上プレイしている日が1日以上,の基準を満たす顧客ID3,986名のプレイデータを抽出した。これらのデータを対象に,1勝・2連勝・3連勝・1敗・2連敗・3連敗の後に,賭け金額及び賭け方(配当:1倍・8倍・11倍)がどのように変化するかを混合効果モデルにより分析した(解析対象総ゲーム数7,935,566回)。固定効果には直前のゲームの勝敗(勝ち=1,負け=-1)と連勝(敗)数の標準得点,それらの交互作用を含めた。変量効果として,顧客と顧客別の来店日の切片項,顧客の傾斜項には直前のゲームの勝敗(勝ち=1,負け=-1)と連勝(敗)数の標準得点,それらの交互作用を投入した。なお,連勝・連敗については,ゲーム間隔が10分以内で行われているものを対象とした。

結 果
 3,986名の内,約7割が30-50代であり,9割弱が男性であった。日本と中国の顧客がそれぞれ4割強を占めており,東アジア圏の中年男性が主な分析対象であった。

賭け金:各ゲームの顧客の賭け金の対数変換値を従属変数とし,分析を実施した。その結果,ゲームの勝敗と連勝(敗)数の交互作用が有意であった(p < .001)。直前の連勝・連敗数が多いほど賭け金が高くなるが,この傾向は勝った後でより顕著であることが確認された。

賭け方:各ゲームの顧客の賭けへの参加(賭ける = 1, 賭けない= 0)を従属変数とし,配当別に分析を実施した。いずれの配当においても,ゲームの勝敗と連勝(敗)数の交互作用が有意であった(ps < .001)。直前の連勝数が増えるほど賭ける選択が増加する一方で,連敗数が増えるほど賭ける選択が減少することが確認された。

考 察
 本研究からは,ギャンブルに繰り返し興じることで,勝敗の結果に依らず,賭け金を増やしていく傾向があること,またこの傾向は勝った後でより顕著であることが明らかとなった。また,勝ちを重ねていくことで,リスキーな賭け方であっても,賭けに参加する割合が増えることも明らかとなった。これらの知見は,実験室実験で賭け行動の分析を行っている先行研究の成果とも矛盾しないものであり(Cummins et al., 2009, Psychol Addict Behav),本研究によって実際のカジノデータから裏付けることができたと言える。今後はさらに先端的なデータ分析手法を用いることで,危険な賭け行動に至る兆候の事前察知・予測を目的とした研究を進めていく。

※本研究は,セガサミーホールディングス株式会社からの共同研究費を得て実施したものである。

キーワード
ギャンブル/カジノ/意思決定


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