発表

3C-065

研究者はどれくらい疑わしい研究行為に関与しているのか
~Webアンケートによる探索的検討~

[責任発表者] 田中 恒彦:1
[連名発表者・登壇者] 佐藤 俊太朗#:2, 川添 百合香#:2, 森口 文博#:3, 佐藤 弘基#:4, 川原 直人#:4, 井内 健介#:5, 河合 孝尚#:2
1:新潟大学, 2:長崎大学, 3:常翔学園, 4:九州大学, 5:徳島大学

目 的
 研究不正とは発表された研究データや調査報告について「ねつ造」「改ざん」「盗用」が行われた場合と定義されている(文部科学省,2009)。また,「研究記録の不備」や「ギフトオーサーシップ」,「不適切な引用」などは,好ましくない研究行為(Questionable research practice;以下QRP)と呼ばれる。近年生物・医学分野を中心に研究不正行為やQRPが注目を浴び,その予防が課題とされている。本邦においては,2014年に文部科学省が示した研究不正への対応ガイドライン改訂以降,研究不正行為の事前防止を目的とした研究倫理教育の実施が求められることになった。
 田中・佐藤・井内・佐藤・野内・川原・河合(2018)は,アメリカ研究公正局(Office of Research Integrity,ORI)が公開している研究不正行為の報告書をもとに研究不正行為のリスク要因について探索的検討を行い,研究費や地位の獲得を希求するような心理的欲求や,職種や雇用形態などの環境要因が研究不正行為に影響する可能性について示した。このように研究不正行為を引き起こす要因についての研究がなされている一方で,研究不正の事前予防策については教材の開発などは行われているものの取り組み研究不正行為の発生に与える影響については検討がなされてない。
 そこで,本研究では医学・生命科学系研究者を対象に,QRPを含む研究不正行為の経験とそれに対する対応策について探索的に検討することを目的にアンケートによる調査を行った。なお,本研究はAMED研究公正高度化モデル開発支援事業の助成を受けて行った。

方法
研究者に対してwebによる調査を行った。調査依頼は国内医学・生物学系研究機関の研究推進関連部署を通して行い,webによるアンケートに回答を求める形でおこなった。2018年11月9日から2019年1月7日まで,医学・医療系の大学・研究機関(企業を含む)の研究者を対象とした研究不正行為に関する意識調査について電子メールで案内を行った。アンケートについては完全匿名でおこない,入力データについても入力後消去するよう考慮した。
調査内容は米国研究公正局が実施したアンケート票や,その他関連するアンケート票等を参考に開発した。具体的な項目としては,年齢,性別,職位,雇用形態,研究歴などの基本統計情報,「改ざん」「ねつ造」などの研究不正行為も含む好ましくない研究行為(二重投稿やギフトオーサーシップ等)についての関与経験の有無,好ましくない研究行為の目撃経験の有無と目撃時の対応手段について(研究者に指摘をしたか,所属機関に通告したかなど)であった。また,回答者のパーソナリティ特性を知ることを目的として日本語版Ten Item Personality Inventoryを行った。
 本発表ではこのうち好ましくない研究行為についての関与経験を中心に発表を行う。

結果
 調査の結果258名から回答が得られた。ねつ造,改ざん,剽窃など明らかな研究不正行為を行ったと回答した者は17名であった。好ましくない研究不正行為を行ったと回答した者は196名であった。なかでも経験として多かったのは「「研究とは希薄な関係であり,明確に貢献をしているわけではないが,年長で社会的地位の高い研究者を論文の著者に加えた」の項目(68名),「統計学的な有意差が得られるまで,様々な手法で解析を行った」の項目(63名)であった。
 得られた調査データについて,連続データについてはWilcoxon順位和検定,カテゴリカルデータについてはFisherの正確確率検定を行った。その結果,准教授はその他の職位の者と比較して「得られたデータをそのまま結果としてまとめない」と回答する傾向や,教授がその他の職位の者と比較して「有意差が得られるまで解析法を変える」と回答する傾向などの特徴が認められた。また,基礎研究分野と比較して臨床研究分野は文献引用について厳密さを求めない傾向があることが明らかになった。
 パーソナリティ傾向との関連として,協調性の高い者では「恣意的にデータを選別する」と回答する傾向が高い傾向や,勤勉性が低い者は「大きな研究の一部であることを明記せず発表する」と回答する者が多くなるなど,一部のパーソナリティ特性と好ましくない研究行為に関連があることが示された。

考察
 多くの研究者が,好ましくない研究行為に関与した経験があるという報告がなされた。今回の調査では実際に関与した時期などは確認できておらず,研究倫理の教育が盛んになる前に行われていた可能性もあるが,ギフトオーサーシップやP-hackingなどが日常的に行われていたことを示す報告であると考えられる。しかし,今回はあくまで自己報告による調査で内容の厳密さには限界が残る。研究不正行為についての実態調査は本邦ではほとんど見られない。より精緻な実態調査が継続的に行われることが必要であろう。

謝辞
本研究は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構の研究公正高度化モデル開発支援事業,採択課題「医療分野における研究不正行為に関する意識調査及び心理的要因分析」により実施した。ここに記して謝意を表する。

キーワード
研究不正/実態調査


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