発表

3B-063

感動体験がもたらす直後および長期的な影響の文化差
今日の自信を取り戻す日本人,明日の愛を取り戻す中国人

[責任発表者] 趙 丹寧:1
[連名発表者・登壇者] 藤 桂:2
1:埼玉大学留学生相談室, 2:筑波大学

 問題と目的
 感動体験に関する先行研究では,その体験の直後の影響として,向社会的行動の促進(Cova & Deonna, 2014),自己認知の変容(Djikic, Oatley, Zoeterman, & Peterson, 2009)などをもたらすことが示されてきた。一方,より長期的なスパンでの影響と考えられるものも着目されてきており,動機づけの向上および認知的枠組みの更新(戸梶, 2004),自己効力感の向上(佐伯・新名・服部, 2006; 畑下・瀬戸, 2012)などが生じることも示唆されてきた。本研究ではこれらの知見を踏まえ,第一の目的として,感動体験がもたらす影響について,直後に生じる影響と,より長期的な影響を区別しながら項目化し,どのような内容へと分類されるかについて検討する。
 さらに近年では,感動体験の文化差について着目されている。特にFiske, Seibt, & Schubert (2017) は,感動体験には通文化的な共通点も見られる一方,所属する文化によっても左右される部分もあることを指摘した。さらにZickfeld et al. (2018)でも,感動がもたらす影響としての向社会的動機づけの向上に関して,日本と中国を含む19カ国間の文化差について検討している。そこで本研究では,これらの知見に基づき,先述した感動体験がもたらす影響に関しても文化差の存在を想定し,第二の目的として,直後および長期的な影響について日本と中国に着目しその文化差を検討する。

 方 法
調査対象・手続き 25歳以下の大学生・大学院生を対象に質問紙調査を実施し,日本人184名(男性93名,女性90名,不明1名,平均19.57歳,SD=1.27),中国人210名(男性56名,女性154名,平均20.46歳,SD=1.27)から回答を得た。
質問紙の構成 「人生の最も感動した体験」の想起を求めたうえで,その影響について尋ねた。予備調査に基づき作成した体験直後の影響に関する17項目(5件法)と,長期的な影響に関する26項目(5件法)を独自に作成した(日本語版)。そして,日本語版に基づき,心理学を専攻し中国語を母国語とする大学院生1名が中国語への翻訳を行い,その後,翻訳を行った1名とは別の中国語を母国語とする大学院生1名による逆翻訳を行った。その内容について,心理学を専門とし日本語を母国語とする大学教員1名による確認を行ったうえで,中国語版を作成した。これらに加え,主観的幸福感尺度(4項目,7件法)の日本語版(島井・大竹・宇津木・池見・Lyubomirsky, 2004)と中国語版(祁・浅川・福本・南,2011),人生に対する満足感尺度(5項目,7件法)の日本語版(角野,1994)と中国語版(祁他,2011)も尋ねた。

 結果と考察
直後および長期的な影響の因子分析 日本人と中国人を統合したデータで探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った。直後の影響に関しては4因子が抽出され,それぞれ,「周囲や他者への新たな気づき」,「自分への肯定的な評価の生起」,「行動の動機づけの喚起」,「運命や人生の意味の実感」に関するものと解釈された(α係数は順に.84, .85, .82, .78)。また長期的な影響では4因子が抽出され,それぞれ「身近な人への接近的・援助的態度の形成」,「自分のあり方の受容と希望の形成」,「利他的・博愛的意識の高まり」,「人生の統制不能感の深まり」に関するものと解釈された(α係数は順に.92, .88, .92, .83)。
主観的幸福感と人生に対する満足度との相関 直後の影響および長期的な影響における各因子と,主観的幸福感および人生に対する満足感との間での相関を確認したところ,日本でも中国でも,概ね正の相関が示された(Table 1)。
日本と中国の比較 各因子の合成得点について,日本と中国の間でt 検定を行った(Table 2)。その結果,直後においては,日本人の方が自分への肯定的な評価および行動の動機づけの喚起が生じやすく,中国人の方が運命や人生の意味の実感が生じやすいことが示された。また長期的には,中国人の方が,身近な人への接近的・援助的態度の形成および利他的・博愛的意識の高まりが生じやすいことが示された。
 したがって感動体験がもたらす影響には,日中間で文化差が存在することが示され,日本人は体験直後に,中国人は長期的なスパンでの影響が生じやすいことが推察される。

キーワード
感動体験/影響/文化間比較


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