発表

3B-061

拘束箱に滞在することはラットにとって嫌悪事象か?
それとも強化事象か?

[責任発表者] 八賀 洋介:1
1:早稲田大学

 近年,人間の共感の動物モデルとして,ラットが注目を集めている。Bartal et al. (2011) は拘束箱に捕らわれる仲間に対し,ラットが救助行動をすることを示し,これを共感に基づく行動レベルのデータとして提案した。しかし,共感を仮定せずとも社会性動物のラットが社交を求めているだけである可能性もある(e.g., Hachiga, et al., 2018)。そもそも,拘束箱に捕らわれることは本当にラットにとって嫌悪的であるのだろうか。本発表では2つの実験によって,ラットが拘束箱に入ることを嫌悪し避けるより,むしろ強化的である可能性を報告する。
 実験1
方法 被験体 オスのSprague-Dawley ラットを18匹使用した。実験経験はなかった。事前に数週間のハンドリングを行い12週齢から実験を開始した。
 装置 プラスティック製の市販の収納箱(幅44×奥行65×高さ43 (cm))の奥行1/3程で分割する位置に木製の仕切り板を設置し,仕切られたうちの広い空間側に Bartal et al. (2011) と同一の拘束箱(内径7×長さ25 (cm))を設置した。
 手続き ラットを拘束箱への拘束時間の違いによって3群に分けた。実験セッション開始時に拘束20分群,拘束10分群はそれぞれ拘束箱に20分または10分の拘束を受け,その後,拘束箱の扉が開けられ,15分の間,拘束箱に入る回数と滞在時間を測定された。拘束0分群は,実験箱の仕切られた1/3側の空間に10分間置かれ,仕切り板を外された後に同様に15分間観察された。7セッション実施した。
結果と考察 拘束10分群と拘束20分群のラットは拘束0分群に比べて,有意に頻繁に拘束箱へ進入した(図1)。また,平均滞在時間はすべての群でチャンスレベルを超えた。この結果は拘束経験の如何に関わらず,拘束箱に進入しそこに滞在することが強化的であることを示唆している。
 実験2
方法 被験体 オスのSprague-Dawleyラットを8匹使用した。実験経験はなかった。実験1と同様の準備の上で実験を開始した。
 装置 プラスティック製の市販の収納箱(幅32×奥行54×高さ30 (cm))に拘束箱を設置した。拘束箱の前扉は巻き上げ式リールで自動で開閉が可能となっていた。その扉から10 cm離れた壁に長さ3 cmのレバーが設置された。
 手続き フェイズ1では,実験セッション開始時には拘束箱の扉は開いており,ラットが一度進入し,再び箱外へ出た後に閉められた。フェイズ2では,セッション開始時にラットは拘束箱内で拘束された。10分後に扉が開き,ラットが箱外へ出た後に扉は閉められた。いずれのフェイズもラットがレバーを押すと,扉は解放され,その後はセッション終了まで拘束箱内へ自由に進入することができた。1セッションは60分で,各フェイズ4セッション実施した。
結果と考察 フェイズ1においてレバー押しを獲得した個体と獲得しなかった個体に分け,すべてのセッションでレバー押しを行った6個体をフェイズ2へ移行させた。フェイズ1からフェイズ2へ移行したことで,平均レバー押し回数は4個体が増加,2個体が減少,平均値に有意差はなかった。フェイズ1においてセッションが進むにつれ,レバーを押してから拘束箱へ進入するまでの潜時が短くなっていった(図2)。フェイズ2ではこの短くなった潜時が維持された。また,セッション進入時の最大滞在時間には,フェイズ間で差が見られなかった。これらのことは,フェイズ2での拘束経験はラットにとって嫌悪事象として働いていないことを示唆する。さらに,レバー押し反応により解放された拘束箱に即座に進入することは,この反応-後続事象の強化随伴性を学習したことを,またその反応が維持されたことは,後続事象が強化的であることを示唆する。
引用文献
Bartal, B. A., Decety, J., & Mason, P. (2011). Empathy
 and pro-social behavior in rats. Science,
 334 (6061)
, 1427-1430.
Hachiga, Y., et al. (2018). Does a rat free a trapped
 rat due to empathy or for sociality? Journal of
 the Experimental Analysis of Behavior, 110(2)
,
 267-274.

キーワード
共感/拘束箱/ラット


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