発表

3A-068

教師のフィードバックが生徒の新規課題へのモチベーションに与える影響
フィードバックの志向性に着目して

[責任発表者] 鈴木 啓太:1
[連名発表者・登壇者] 村本 由紀子:1, 吉川 元#:2
1:東京大学, 2:東京大学

問題:困難に直面している他者に対してどのよう接することでモチベーションを維持させるかは,教育場面では重要な問題である。Rattan et al. (2012) は能力の可変性に関する信念である暗黙理論(Dweck, 2006)に着目し,能力は固定的だと考える実体理論を持つ教師は困難に直面した生徒に対して「全員が才能を持つわけではない」といった助言を行うなど,当該生徒を慰めることを志向するフィードバック(以下,慰めFB)を行うこと,そのような慰めFBを受けると課題に対する生徒のモチベーションが低下することを明らかにした。一方,能力は可変的であると考える増加理論を持つ教師は「より課題を増やそうと思う」といった助言を行うなど,生徒の成績向上を目指す戦略に関連するフィードバック(以下,戦略FB)を行うこと,そのような戦略FBを受けると課題に対する生徒のモチベーションが向上することも示された。以上を踏まえてRattanらは,教育場面において教師が増加理論をもつことの望ましさを主張した。
上記のRattan et al. (2012) は,生徒が特定の課題に取り組み,その達成を目指すという前提に立って有効な暗黙理論を検討した研究である。しかし,取り組むべき課題を複数の選択肢の中から選択する場面を扱った近年の研究では(e.g., Suzuki & Muramoto, 2017),困難な課題に直面した時に努力の持続を好まない実体理論者の性質が,複数の選択肢から適性のある課題を選ぶ方略に長けているというポジティブな側面を持つことを明らかにしている。Rattan et al., (2012) はそのような複数課題場面を扱っていないが,実際の教育場面においては学習者が複数の課題に直面する状況が多くみられることを踏まえると,実体理論者のポジティブな側面に目を向けた研究の重要性は高いといえる。以上の課題を踏まえ本研究では,2種のFBが現在取り組んでいる課題(Current Task:CT)とまだ取り組んでいない課題(New Task:NT)のそれぞれに対する学習者のモチベーションに与える影響を検討した。
上記の検討のため,学業で困難に直面した時に教師から2種のFBのいずれかを受ける状況を参加者に想起させたうえで,その後CTとNTそれぞれに取り組むモチベーションがどの程度あるかを回答させるシナリオ実験を行った。増加理論者が志向する戦略FBは困難時に努力を継続するために有効といえる一方で,適性のある課題を探索するには実体理論者が志向する慰めFBの方が有効であると考えられる。したがって,Rattan et al. (2012)と同様,CTに対するモチベーションは慰めFBよりも戦略FBを受けた方が高くなる(仮説1)が,NTに対するモチベーションは逆に,慰めFBよりも戦略FBを受けた方が高くなる(仮説2)と予測した。
方法:78人(男性48人,女性30人)の大学生が実験に参加した。初めに参加者の暗黙理論(3項目,α = .88,大きい値であるほど実体理論的)を測定した。次いで,参加者に慰め志向FB条件・戦略志向FB条件・統制条件のいずれかのシナリオを提示した。シナリオの概要は以下の通りであった。参加者に,自分が受けた数学のテストの成績が不振である場面を想起させた後,条件ごとに異なる教授からのフィードバックを提示した。慰め志向FB条件では,誰もが数学の才能を持つわけではないこと,今後はもっと簡単な課題を与えるということが,戦略志向FB条件では,勉強のやり方を変えてるべきだということ,今後はもっと難しい課題を与えるということがそれぞれフィードバックの内容として盛り込まれていた。統制条件にはいずれの内容も盛り込まれていなかった。
シナリオ提示後,以下の質問項目に回答させた:(1)CTに取り組むモチベーション(2項目,α = .77)(2)NTに取り組むモチベーション(2項目,α = .66)(3)教授の暗黙理論の認知(3項目,α = .66)。(※紙幅の都合上,その他の質問項目については報告を割愛する。)
結果:条件毎の教授の暗黙理論の認知の平均値を比較し,FBの操作チェックを行ったところ,戦略志向FB条件と統制条件の間に差が見られなかったため,以降の仮説の検証には統制群は使用しなかった。仮説の検証のため,FB条件(慰め志向FB,戦略志向FB:参加者間要因)と課題の種類(CT,NT:参加者内要因)を独立変数,モチベーション得点を従属変数とする混合要因の分散分析を行った。分析の結果,課題の種類の主効果(F (2, 57) = 36.26, p < .001)及び,課題の種類とFB条件の交互作用(F (2, 57) = 7.56, p = .007)が有意となった。単純傾斜分析の結果,FB条件の主効果はCTでは見られず(p = .226),NTにおいてのみ見られた(p = .018)。
考察:結果は仮説2のみを支持し,実体理論者の用いる慰めFBにも,新しい課題のモチベーションを高めるというポジティブな側面があることが示された。Rattan et al., (2012)らの結果が追試されなかった(仮説1不支持)理由として,日本では教師が増加理論的であることが一般的であり(Heine et al., 2001),戦略FBの影響が少ない可能性が考えられる。今後はこのような文化差を考慮に入れた上での研究の精緻化が課題になるだろう。

キーワード
暗黙理論/達成動機/マインドセット


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