発表

3A-066

複雑な感情を引き起こす場面の検討

[責任発表者] 翁川 千里:1
[連名発表者・登壇者] 岩田 美保:2
1:東京学芸大学, 2:千葉大学

問題と目的  「一つの対象に対して二つの異なる感情価の感情が存在すること」(Smith, Glass, & Fireman, 2015)を指す”複雑な感情(mixed feelings)”の理解の発達が検討されてきている。その多くは参加者に特定の場面を提示し,その場面で引き起こされた複雑な感情を問うものが多かった(例えばDonaldson & Westerman(1986),Larsen, To, & Fireman(2007))。従来の研究では複雑な感情の理解ができるのは10歳前後(渡辺,2011)とされているにも関わらず,複雑な感情が発生すると想定した場面を用いた久保(1999)の研究では12歳でも複雑な感情の回答者数が36%と低かった。こうした回答者数の少なさには複雑な感情理解の発達だけでなく,提示された場面の内容が影響を与えた可能性がある。そのため本研究では場面の精査をするべく言語的制約のない大学生を対象とした回顧法により,小学生時代を含む過去に遡り複雑な感情が引き起こされた経験について尋ねる。さらに複雑な感情理解の発達を明確化するための予備調査として,「小学生」から「大学生」までの年齢区分を設け複雑な感情が引き起こされた出来事を尋ねることとした。これにより年齢段階ごとに複雑な感情が引き起こされる場面を検討することを目的とする。 方法参加者 国立大学学生70名(平均年齢=19.9歳, SD =1.41)。
質問紙の構成 A3用紙1枚の左側に複雑な感情と倫理的配慮についての説明を記載し同意書兼フェイスシートとした。右側は質問項目で構成し,仲の良い同性の友人との間での複雑な感情を引き起した出来事,そのときの感情,その結果相手や自分に対してした行動について尋ねた。
分析法 筆者と心理学の知識を有する2名で有効回答を精査し,その内の1名と筆者で年齢段階ごとに「複雑な感情が引き起こされた出来事」のKJ法に基づくカテゴリ分けを行った。「小学生時代」について回答者は26名であり,そこから「ポジティブ感情とネガティブ感情」,「仲の良い友人」について言及していない回答を除いたところ,有効回答数は15であった。「中学生時代」について回答者は37名,有効回答数は27,「高校生から現在」について回答者は41名,有効回答数は29であった。さらに筆者らのカテゴリ分類と他の心理学の知識を有する1名との間での評定の一致度を算出した。各年齢段階でのκ係数は「小学生時代」に関するものがκ=.76,「中学生時代」に関するものがκ=.72,「高校生から現在」に関するものがκ=.83であった。
結果と考察 「小学生時代」と「高校生から現在(大学生)」において複雑な感情が引き起こされた出来事のカテゴリ分類とその回答例を表した(小学生:Table1,高校から現在(大学生)Table2)。
 全ての年齢段階において「仲間関係(友人との関係)」,「恋愛」のカテゴリが共通してみられた。従来の複雑な感情理解の研究課題ではほとんど用いられてこなかった「恋愛」場面が複雑な感情を引き起こしやすい一場面であるということが示唆された。
 「中学生時代」と「高校から現在」において「受験」と「部活動」のカテゴリが共通してみられた。これらは,「小学生時代」にはみられなかったものであり,年齢段階に応じて複雑な感情が生じる状況が異なることが推察される。
 また,同じ「恋愛」カテゴリでも「小学生時代」は「友人と同じ人を好きになる場面」が多く見られたが,「高校から現在(大学生)」では「友人に恋人ができ自分と遊んでくれなくなる」というように年齢段階によって内容が異なることが考えられる。
 「仲間関係(友人との関係)」カテゴリでは「自分と仲の良い友人とさらに第三者がおり,その第三者に自分だけ遊びに誘われるような場面」や,「恋愛」では「自分と友人の好きな人(第三者)が同じ場面」などの回答が多く見られ,第三者の存在がある方が複雑な感情を引き起こしやすいと推測される。

キーワード
複雑な感情


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