発表

2D-059

内受容感覚の個人差要因と感情の自覚困難性との関連

[責任発表者] 本多 樹:1
[連名発表者・登壇者] 小林 亮太:1, 中尾 敬:1
1:広島大学

目的
 身体内部の生理状態に対する感覚のことを内受容感覚 (e.g., 心臓の拍動や, 胃の収縮などに対する感覚) と言い, 感情体験と密接な関連があることが提唱されている (James, 1984; Damasio, 1994 など)。内受容感覚には個人差があり, それを捉える側面のひとつに主観指標により測定される内受容感覚への意識がある。内受容感覚への意識は, 知覚した内受容感覚に対する評価・解釈や, 内受容感覚への注意の向け方など, 様々な次元から成り (Mehling et al., 2012), それぞれが個人内に生じた感情を自覚することの困難性の低さと関連することが報告されている (Mehling et al., 2012; Shoji et al., 2018)。
 また, 内受容感覚への意識以外にも, 内受容感覚の個人差を捉える側面として, 心拍弁別課題 (Whitehead, 1977) などを用いた客観指標により測定される内受容感覚の鋭敏さ (内受容感覚を正確に知覚する能力; Barrett et al., 2004) がある。内受容感覚が鋭敏である個人は, 感情を強く感じる (Wiens et al., 2000) ことや, 自身の感情を識別する能力が高い (Barrett et al., 2004) ことが報告されている。このことから, 内受容感覚への意識と同様に, 内受容感覚の鋭敏さが高いほど, 個人内に生じた感情を自覚することの困難性が低くなることが想定される。一方で, 内受容感覚への意識と内受容感覚の鋭敏さとの相関は低いことが示されており (Cali et al., 2015), これらの側面と感情の自覚困難性との関係は異なる可能性もあるが, この点については明らかではない。
 そこで, 本研究では, 内受容感覚への意識と内受容感覚の鋭敏さの両方が感情の自覚困難性と関連するか, 内受容感覚への意識のみが関連するのかについて検討を行った。

方法
 実験参加者 大学生34名が実験に参加した。分析対象は33名 (女性22名, 平均年齢21.03歳, SD = 1.88) であった。
 測定内容 (1) 内受容感覚の鋭敏さ: Whiteheadら (1977) を参考に心拍弁別課題を用いて測定した。この課題は, 参加者自身の心拍と同期 (心電図のR波 + 200ms) または非同期 (R波 + 500ms) である音が10度鳴り, それに対し自身の心拍と同期していたかどうかの判断を求めるものであった。本研究では, これを80試行行った。なお, 同期・非同期音は40試行ずつ提示された。また, 内受容感覚の鋭敏さはこの課題への反応から信号検出理論 (Aaronson & Watts, 1987) に基づき算出した。
(2) 内受容感覚への意識: 内受容感覚への気づきの多次元的アセスメント (MAIA; Mehling et al., 2012; Shoji et al., 2018) を用いて測定した。本尺度は, 「気づき」, 「気が散らない」, 「注意制御」, 「感情への気づき」, 「身体を聴く」, 「信頼する」 の6因子25項目から成り, 各項目について, 日常生活においてどのぐらい当てはまるかを6件法 (0: 全くない - 6: いつもある) で評定するよう求めるものであった。
(3) 感情の自覚困難性: 感情制御困難性尺度 (DERS; Gratz & Roemer, 2004; 山田・杉江, 2013) の 「感情自覚困難」 因子を用いて測定した。本因子は4項目から成り, 各項目について, どのぐらい当てはまるかを5件法 (1: ほとんどない - 5: いつも) で評定するよう求めるものであった。

結果
 「感情自覚困難」を従属変数, 内受容感覚の鋭敏さとMAIAの6因子を独立変数とする重回帰分析を行った (Table 1)。その結果, 内受容感覚への意識の得点の高さが, 「感情自覚困難」 因子の得点の低さを強く予測することが明らかとなった。

考察
 本研究では, 内受容感覚を捉えるどのような個人差要因が感情の自覚困難性と関連するかについて検討を行った。その結果, 内受容感覚の鋭敏さよりも, 内受容感覚への意識が感情の自覚困難性と関連することが明らかとなった。
 内受容感覚に鋭敏であることは, 感情の自覚困難性の低さと関連することも想定されたが, そのような結果は示されなかった。本研究では, 主観指標により感情の自覚困難性を測定したが, 主観指標が捉えることは個人が自身の感情を自覚できると思っている程度であり, 必ずしも客観指標で捉える能力と対応しない可能性があると考えられる。これにより, 内受容感覚を知覚する能力をあらわす内受容感覚の鋭敏さが, 主観指標により測定された感情の自覚困難性と関連しなかったと推察する。そのため, 今後は, 客観指標により測定を行った感情自覚の能力を用いて内受容感覚の両側面との関連を検討する必要がある。

キーワード
内受容感覚への意識/内受容感覚の鋭敏さ/感情の自覚困難性


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