発表

2D-057

自己注目が気分に及ぼす影響
ー思考内容の具体性に着目してー

[責任発表者] 佐藤 野々花:1
[連名発表者・登壇者] 田渕 梨絵:2, 及川 恵:2
1:東京学芸大学, 2:東京学芸大学

 
 動を取ったのか”というように,出来事の原因や結果,影響について文脈に沿わずに概括的に考えることである。一方,具体的思考とは,“どのように行動したのか”というように,出来事や行動ついて文脈に沿って詳細に考えることである(Watkins et al., 2009)。Watkins et al. (2008)は,思考の処理モードがストレス課題後の気分に与える影響を検討し,抽象的処理モードがネガティブ気分を増加させ,ポジティブ気分を減少させるのに対し,具体的処理モードは,ネガティブ気分を減少させる効果を持つことを示している。また,具体的思考はネガティブな出来事からネガティブ感情を回復させることも示唆されている(Watkins, 2008)。このように抽象的思考が不適応的である一方で,具体的思考は適応的な思考モードとされてきた。
 しかしながら,先行研究の課題として,具体的思考を検討する際に,今どのようにこの状況に対処できるかなどといった問題解決的視点を促す要素が含まれているものと含まれていないものが混在している点が挙げられる(e.g., Bassanini et al., 2014;Watkins & Moulds, 2005)。
 そこで本研究では,自己注目における具体的思考の有効性を明らかにするため,問題解決的視点の有無を考慮した上で,思考内容の具体性の異なる自己注目の操作を行い,気分
に及ぼす影響の検討を行う。

 方法
対象
 大学生及び大学院生70名(男性9名,女性61名,平均年齢20.93±1.49歳)を,ランダムに抽象群(n=22),具体群(n=24),問題解決群(n=24)の3群に振り分けた。
手続き
 群ごとにそれぞれ思考の具体性が異なる自己注目課題を実施し,課題前後に気分状態を測定した。
 自己注目課題:甲田・伊藤(2009)の抑うつ喚起場面について,各群の教示に従って6分間想像するよう求めた。抽象群では出来事の原因や意味,結果について,具体群では,映画を観るように出来事の展開や自分の行動,考えについて,問題解決群では具体群の教示に加えて自分にできる解決策について想像するよう教示した。教示文は先行研究(e.g.,
Watkins et al., 2008)を参考に作成した。
 自己記入式尺度:Depression and Anxiety Mood(福井,1997)から,抑うつ気分及び肯定的気分の各3項目(7件法)を用いた。


 結果
 自己注目の操作が不十分であったものを除外するため,課題前後の各気分の差得点が平均より±2SD以上離れた者5名(抽象群1名,具体群1名,問題解決群3名)を分析対象から除いた。
 課題前後の各気分の差得点を従属変数,群(抽象・具体・問題解決)を独立変数とし,一要因分散分析を行った(Figure 1)。
 抑うつ気分については,群の有意な主効果が認められた(F(2,62)=7.07, p<.01)。多重比較の結果,問題解決群は,抽象群(p<.01),具体群(p<.05)に比べて,抑うつ気分の増加量が有意に少なかった。
 肯定的気分については,群の主効果は有意でなく(F(2,62)=1.05, n.s.),群間の有意差は見られなかった。

 考察
 本研究の結果から,問題解決的視点を含めた具体的思考は,抽象的思考や具体的思考のみの場合に比べて抑うつ気分の増幅を抑えるという適応的な効果を持つことが示唆され
た。先行研究において(Watkins et al., 2008),具体的思考が抑うつの増幅を抑えることが示されていたものの,本研究の結果からは,抑うつを増加させないためには出来事について具体的に想起するだけでなく,問題解決策や対処法についても併せて考えることが重要である可能性が示唆された。今後は本研究の知見を心理的介入へと応用し,適応的な自己注目の促進へ活かしていくことが期待される。
 一方で,本研究の限界として,問題解決的視点を含めた具体的思考においても,抑うつ気分を減少させるまでには至らなかった点や,肯定的気分への有効性は示されなかった点が挙げられる。今後は,反すう傾向などの個人特性を考慮した詳細な検討が望まれる。

キーワード
自己注目/具体的思考/気分


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