発表

2D-056

母親の育児行動に対する基本的心理欲求充足と動機づけ・well-beingとの関連

[責任発表者] 寺薗 さおり:1
[連名発表者・登壇者] 浜崎 隆司:2
1:埼玉大学, 2:鳴門教育大学

【目 的】 平成13年から開始された母子の健康水準を向上させるための様々な取組「健やか親子21」の最終評価では,子育てに自信が持てない母親の割合は変わらず,「健やか親子21(2次)」でも継続して育児不安の軽減に向けた支援を課題としている(厚生労働省,2015)。母親が体験する育児行動とは,子どもとの関係性においてポジティブな体験を味わう一方でネガティブな体験を対処しながら日常的に繰り返される子どもの世話である(寺薗,2019)。母親は子育ての否定的な側面を受け入れながら母親として適応していくという(徳田,2004)。このことから,母親は子育ての否定的な経験でさえも臨機応変に対処し,その価値を認めながら日々の育児行動を継続するための動機づけを有していることが考えられる。Ryan & Deci(2000)の自己決定理論では,3つの基本的心理欲求(自律性,有能感,関係性)の充足が自己決定的動機づけやwell-being を促進するとされている。母親の育児行動に対して必ずしも報酬があるわけではないが,日常的に継続する必要がある。このような育児行動に対して母親が自律的な動機づけをもつことができれば,日々の子育ての中での母親の自己評価は高まり,育児不安も軽減されるのではないだろうか。そこで本研究では,育児行動に対する基本的心理欲求と動機づけ,well-beingとの関連を検討し,育児行動に対する基本的心理欲求を充足する支援の可能性を探ることを目的とする。
【方 法】 調査対象:乳幼児期の子どもをもつ母親。手続き:保育所,幼稚園,地域子育て支援拠点を通して810部配布。母親が家庭で記入後,無記名で封をして各施設へ提出(460部回収)。母親432名(有効回答率は53%)を分析の対象とした。調査時期:2019年2~3月。調査内容:①寺薗(2019)の育児行動に対する基本的心理欲求充足尺度15項目(5件法)。②寺薗(2019)の育児行動に対する動機づけ尺度15項目(5件法)。③金岡(2011)の育児に対する自己効力感尺度13項目(5件法)。④伊藤ら(2003)の主観的幸福感尺度12項目(4件法)。倫理的配慮:所属大学の倫理委員会の審査を受け,承諾を得た。
【結 果】 3つの基本的心理欲求充足尺度との間の相関分析の結果をTable1に示した。母親の育児行動に対する動機づけのうち,「内的調整」と「同一化的調整」は正の相関,「取り入れ的調整」,「外的調整」,「無動機づけ」は負の相関が確認された。well-beingの指標となる「育児に対する自己効力感」と「主観的幸福感」は正の相関が確認された。
【考 察】 育児行動に対する3つの基本的心理欲求充足は自律性の高い「内的調整」と「同一化的調整」との間に正の相関,育児に対する自己効力感尺度と主観的幸福感との間に正の相関を認めた。このことから,母親の「自律性」,「有能感」,「関係性」の欲求が充足されたとき,育児に対する自己決定的な行動やwell-beingが高まる可能性が示唆された。一方,非自己決定的な「無動機づけ」との間に負の相関が示され,3つの基本的心理欲求が充足されていないと,非自己決定的な動機づけで育児が遂行される可能性も示唆された。本研究では,3つ基本的心理欲求充足と自律的な動機づけと正の相関,そして無動機づけと負の相関が確認された。これらの結果から,3つの基本的心理欲求の充足が母親の自律的動機づけの内在化プロセスにおいて重要な要因となっていることが考えられる。このことは,無動機づけの母親に対して段階的に自律的な動機づけへと変容するにはどの側面の育児行動に対する基本的心理欲求を充足すればよいかというアセスメントの手がかりとなると思われる。今後は母親の育児行動と動機づけの構造を明らかにし,母親の育児行動に対する動機づけの内在化プロセスへの支援として基本的心理欲求を検討していく必要がある。
【引用文献】
伊藤裕子他(2003).主観的幸福感尺度の作成と信頼性・妥当性の検討 心理学研究,74,276-281.
金岡 緑(2011).育児に対する自己効力感(Parenting Self-efficacy Scale: PSE尺度)の開発とその信頼性・妥当性の検討 小児保健研究,70,27-38.厚生労働省(2015).
健やか親子21(2次)http://sukoyaka21.jp/ (2017年7月9日閲覧)
Ryan,R.M. & Deci,E.L.(2000).Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, well-being. American Psychologist, 55,68-78.
寺薗さおり(2019).子育て期の母親の育児行動に対する基本的心理欲求充足と動機づけとの関連 小児保健研究,78,33-40.
徳田治子(2004).ナラティヴから捉える子育て期女性の意味づけ:生涯発達の視点から 発達心理学研究,15,13-26.
謝辞:本研究はJSPS科学研究費助成事業(基盤研究C)17K01889の助成を受けて実施した。

キーワード
自己決定理論/育児行動/well-being


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