発表

2C-049

大学生における失敗に対する認知と学習動機の関連

[責任発表者] 竹村 明子:1
[連名発表者・登壇者] 五十嵐 遥香#:1
1:仁愛大学

1. 背景と目的
 失敗は,自己の学習や成長につながるポジティブな効果をもたらす可能性を持つ一方,動機づけ低下または無力感,抑うつ症状などネガティブな効果を引き起こす危険性も同時に含んでいる。このような様々な失敗を経験することで獲得される,失敗に対する捉え方や価値観は,失敗観(beliefs about failure)と呼ばれる。例えば,池田・三沢(2012)は,大学生を対象に失敗に対する価値観を測定し,失敗をネガティブな感情を喚起させるものと考える「失敗のネガティブ感情価」および,失敗を学習する機会と考える「失敗の学習可能性」,失敗を可能な限り避けたいと考える「失敗回避欲求」,失敗を不可避に発生しうるものと考える「失敗の発生可能性」の4側面を見出している。また,西村・瀬尾・植阪・マナロ・田中・市川(2017)は,教育場面に限定された失敗観尺度を作成し,失敗を活用可能なものと捉える価値観を表す「失敗に対する活用可能性の認知」と,失敗を自分の存在価値を脅かす回避すべきものと捉える価値観を表す「失敗に対する脅威性の認知」の2側面があることを報告している。
 このような失敗観はどのような動機づけを持つかにより異なることが示唆されている。例えばRyan & Connell(1989)は,自律的な動機づけは学業での失敗時にその原因を探したり特定したりする態度と正の関連があり,統制的な動機づけは,その失敗の重要さを否定する態度と正の関連があることを明らかにしている。同様に西村・他(2017)は,失敗に対する活用可能性の認知と自律的学習動機づけの間,そして失敗に対する脅威性の認知と統制的学習動機づけの間,にそれぞれ中程度の正の関連があることを見出している。
 そこで本研究では,失敗観と学習動機づけの間の関係について検討を行った。先ず先行研究と同様に,自律的動機づけ(内的調整と同一化調整)および統制的動機づけ(取入調整と外的統制)について,失敗観との関連を調べた。次に動機づけとして目標志向性を取り上げ,失敗観との関連を調べた。仮説として,個人の技能や知識の向上を目標とする志向性(課題志向性)は失敗に対する活用可能性の認知が高く,他者と競争で自己の能力の高さを示すことを目標とする志向性(自我志向性)は失敗に対する脅威性の認知が高くなると予想した。
2. 方法
 調査対象者:心理学関連の授業を受講する大学生男子24名,女子41名(平均年齢19.8歳,標準偏差2.97,年齢幅19—43歳)であった。
 調査手続:質問紙法を用いて集団調査の形式で実施した。
 調査項目:a) 失敗観尺度:西村・他(2017)の失敗観尺度のうち「失敗に対する脅威性の認知(以下,失敗脅威認知)」因子の5項目および「失敗に対する活用可能性の認知(以下,失敗活用認知)」因子の5項目について5件法(1~5点)で回答を求めた。b) 目標志向性尺度:前原・竹村(2004)の学業領域における目標志向性尺度のうち「課題志向性」因子の6項目および「自我志向性」因子の7項目について5件法(1~5点)で回答を求めた。c) 自律的学習動機尺度:西村・河村・櫻井(2011)の自律的学習動機尺度のうち「内的調整」因子および「同一化調整」因子,「取入調整」因子,「外的調整」因子などの各5項目について4件法(1~4点)で回答を求めた。
3. 結果
 失敗観2因子と動機づけ(目標志向性2因子・自律的学習動機4因子)の相関係数を算出したところ以下の結果が見出された。a) 失敗脅威認知と失敗活用認知の関係:2因子間の相関係数を調べた結果,失敗脅威認知と失敗活用認知の間は無相関であった(r =-.06, n.s.)。b) 目標志向性と失敗観の関係:目標志向性2因子と失敗観2因子の相関係数を調べた結果,自我志向性が高いほど失敗脅威認知が高く(r =.25, p<.05),課題志向性が高いほど失敗活用認知が高かった(r =.33, p <.01)。c) 自律的学習動機と失敗観の関係:自律的学習動機4因子と失敗観2因子の相関係数を調べた結果,取入調整および外的調整が高いほど失敗脅威認知が高く(順にr =.45, p <.001; r =.29, p <.05),内的調整および同一化調整が高く外的調整が低いほど失敗活用認知が高かった(順にr =.55, p <.001; r =.40, p <.01; r =-.32, p <.05)。
4. 考察
 a) 自律的学習動機と失敗観の関係を調べた結果,先行研究と同様の結果が見出され,自律的学習動機の質的違いにより失敗経験の捉え方が異なることがわかった。すなわち,学習活動の理由として楽しさや大切さを挙げる傾向(自律的動機づけ)が高いほど,失敗を活用可能性と捉える認知が高いこと,学習活動の理由として他者からの報酬や承認を得る事を挙げる傾向(統制的動機づけ)が高いほど,失敗を自己の脅威と捉える認知が高いことが明らかとなった。 b) 目標志向性と失敗観の関係を調べた結果,仮説通り,課題目標志向性が高いほど失敗に対する活用可能性の認知が高いことが見出され,個人の技術や知識の向上を目標とする傾向が高いほど,失敗を現在の自分の欠点の見直しにつながり,自分の成長のチャンスと捉え,失敗に対するポジティブ感情が高いことが示唆された。さらに,自我目標志向性が高いほど失敗に対する脅威性の認知が高いことが見出され,他者より優ることを目標とする傾向が高いほど,失敗を恥ずかしいこと,自己を否定する事と捉え,失敗に対するネガティブ感情が高いことが示唆された。
引用文献
 西村多久磨・瀬尾美紀子・植阪友理・マナロ エマニュエル・田中瑛津子・市川伸一(2017).学業場面に対する失敗観尺度の作成. 教育心理学研究, 65, 197-210.

キーワード
失敗観/目標志向性/自己決定性


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