発表

2C-048

大学生と中高齢者の「忘れがたい音楽」に対する感情体験
感情および身体反応の主観報告に基づいて

[責任発表者] 正田 悠:1
[連名発表者・登壇者] 髙瀬 真里奈#:2, 阪田 真己子#:2
1:神戸大学, 2:同志社大学

目的
 音楽を聴取すると,楽しい,悲しいといった基本的な情動から,スピリチュアルな,メランコリックな,といった高次の感情まで,多様な感情が喚起される。涙が出る,鳥肌が立つ,胸が締めつけられるといった身体感覚も生じる(安田・中村, 2008)。こうした身体反応を伴う音楽は個人によって異なり,大学生では人生における重要なイベントと関連づけられる(正田他, 2017)。髙瀬他(2018)は,過去の体験と結びついた個人に特有の音楽を「忘れがたい音楽」と定義し,大学生および中年世代(40〜50歳代)において忘れがたい音楽に重複がほとんど認められないこと,中年世代の場合は15〜30歳に聴取した音楽を選択する傾向が高いことを示した(レミニセンス・バンプ)。本研究では,70歳代までの中高齢者も対象に含め,忘れがたい音楽の聴取に伴う感情・身体反応の主観報告が,「当時」と「現在」でいかに異なるか,また,大学生世代と比較していかに異なるかを調べた。

方法
分析対象者 髙瀬他(2018)の質問紙のうち分析対象項目にすべて回答した大学生418人(男性205人, 平均19.59歳, SD=2.50)および中高齢者188人(男性60人, 平均54.73歳, SD=9.54)を分析の対象とした。
分析対象項目 下記の項目を分析に使用した(いずれも単極5件法)。高齢者の自伝的記憶の感情的側面を調べた屋沢他(2017)の8項目に,基本6情動を網羅するために「腹立たしい」「怖い」「嫌だ」を加えた11項目,ノスタルジアのBittersweetな側面を調べた長峯・外山(2016)の8項目,身体反応として安田・中村(2008)の5項目。「現在」のみ「懐かしい」「戻りたい」を追加した。感情11項目については,平行分析を実施後,探索的因子分析(ミンレス法,独立クラスター回転)によって因子を抽出し,尺度得点を算出した。Bittersweet感情については,8項目の平均値(尺度得点)を使用した(α=.87)。「現在」のみで尋ねた「懐かしい」および「戻りたい」については2項目の平均値を「懐古感情」として使用した(α=.67)。

結果と考察
 探索的因子分析の結果,感情反応について,因子1(誇らしい,ありがたい,嬉しい),因子2(腹立たしい,怖い,嫌だ,恥ずかしい),因子3(悲しい,辛い)が抽出された。これらの因子を含む10項目について,世代(大学生・中高齢者)および聴取時期(当時・現在)を要因とする二要因混合分散分析を行なった(Table 1,現在のみで尋ねた懐古感情は世代のみが要因)。時期の主効果に注目すると,全体として,当時に比べて現在の方がポジティブだと捉えられており,身体反応はいずれも当時の方が高く評定された。世代差に注目すると,Bittersweet感情および「涙」は中高齢者の方が高く評定された。交互作用に関しては,「胸」,「背筋」の両項目とも,現在では世代差が認められなかったが,当時では中高齢者の方が高かった。
 感情反応と身体反応の各項目間の相関係数を算出した(Table 2)。大学生では聴取当時の因子3(悲しい・辛い)と胸の相関係数が大きかった以外は,当時と現在で強い相関を示した項目は同一であった。その一方で,中高齢者は「現在」で,Bittersweet感情および因子1(誇らしい・ありがたい・嬉しい)と身体反応の間の高い相関がより明確に示された。このことは,中高齢者が現在「忘れがたい音楽」を聴取するとき,ほろ苦さや甘酸っぱさといったアンビバレントな感情や,誇らしさ,ありがたさといったポジティブな感情が,“感動”を導く強烈な身体反応と結びついていることを示している。とりわけ「涙」は大学生の場合はネガティブな感情(因子3)との相関が高いのに対し,中高齢者の場合はポジティブな感情(因子1)との相関が高いことから,年代を重ねるにつれ「忘れがたい音楽」を聴取することによって生じる涙感がポジティブな感情へと変容していくことを示唆する。今後,こうした変容を,忘れがたい音楽が成立する過程と対応させることにより,ライフスパン全体を通して,音楽関連の自伝的記憶と感情の関係を記述することが可能になると考えられる。
 

キーワード
忘れがたい音楽/感情/身体反応


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