発表

2C-047

自己注目から抑うつへの影響における注意制御能力の調整効果について

[責任発表者] 石川 遥至:1
[連名発表者・登壇者] 越川 房子:1
1:早稲田大学

問題・目的
 自己の内面に注意を向ける自己注目は,抑うつを高める不適応的な側面と,自己理解などに寄与する適応的な側面をもつ(高野ら, 2012; Watkins & Teasdale, 2004)。自己注目の適応性に影響する要因としては,自己関連思考の内容・感情価や態度などが挙げられる (Watkins, 2008)。これらの認知的側面は自己注目時の思考を直接的に左右するという点で重要なものであるが,同時に自己注目の原因や動機と密接に結びついており,介入という観点からは制御が困難なものであるともいえる。
 より制御・訓練しやすいものとしては,その基盤となる中核的なスキルが想定される。例えばIshikawa et al. (2017) では,思考から距離を置いて観察するスキルである脱中心化が自己注目の適応性に影響する可能性が示された。また,脱中心化はさらに単純化された注意制御能力によって支えられることが示唆されている (Sugiura, 2006)。
 そこで本研究は,特性的な自己注目傾向から抑うつへの影響を注意制御能力が調整するという仮説を立て,質問紙調査による検証を行った。
方法
対象者 尺度への回答に欠損値のない大学生・院生247名(男性101名,女性142名,無回答4名)を対象とした(平均年齢19.9±1.51歳)。
尺度 1.自己没入尺度(坂本, 1997):自己注目の生起・持続しやすさを測定する全11項目の尺度である。2.能動的注意制御尺度(今井ら, 2015):日常生活における注意制御能力を測定する尺度であり,「選択的注意(選択)」,「転換的注意(転換)」,「分割的注意(分割)」の3下位尺度,各6項目で構成される。3.CES-D日本語版(島ら, 1985):抑うつを測定する全20項目の尺度である。
結果
 変数間の相関を算出したところ,自己没入は転換・分割的注意と有意な負の相関を示し,抑うつとは有意な正の相関を示した。また,注意制御能力はいずれも抑うつと有意な負の相関を示した (表1)。
 次に,抑うつを目的変数とする階層的重回帰分析を行った(表2)。Step1で年齢と性別を投入し,Step2では自己没入と注意制御能力(選択・転換・分割)の主効果を投入した。最後にStep3では,自己没入と各注意制御能力の交互作用項を投入した。
 その結果,Step2 (ΔR2=.35, p<.001) ,Step3 (ΔR2=.04, p<.01) において有意な決定係数の増加がみられた。Step2では,自己没入から抑うつへの有意な正の影響,選択・分割から抑うつへの有意な負の影響がみられた。そしてStep3では,自己没入×転換,自己没入×分割の交互作用項が有意であった。単純傾斜分析を行ったところ,まず転換的注意について,自己没入が低い (-1SD) 場合には転換から抑うつへ有意傾向の負の影響がみられるのに対し (β=-.22, p<.10),自己没入が高い (+1SD) 場合には転換から抑うつへ有意な正の影響がみられた (β=.45, p<.01)。一方,分割的注意については,自己没入が低い場合には分割から抑うつへの影響が有意ではないのに対し (β=.04, n.s.),自己没入が高い場合には分割から抑うつへ有意な負の影響がみられた (β=-.52, p<.001)。
考察
 本研究の結果からは,自己没入の高さが抑うつの高さを予測するものの,その影響を転換的注意・分割的注意という2つのスキルが調整することが示された。まず転換的注意の高さは,自己没入が低い場合は抑うつの低さを予測する一方,自己没入が高い場合には逆に抑うつを高める影響をもつことが示唆された。自己没入の高い人は,自己の感情や周囲・理想と比較した自分について日常的に考え込みやすい。こうした人々において,注意を転換するスキルは,例えば回避的な気そらしのような不適応的なコーピングにつながってしまうのかもしれない。これに対し,分割的注意の高さは,自己没入が高い場合に抑うつの低さを予測した。自己のネガティブな側面等に注意が向いた状態でも同時に他の情報を処理できることは,思考に反応せず受容するという態度に通じるものであるかもしれない。分割的注意スキルの訓練によって自己注目の適応的側面が強調されることが期待される。

キーワード
自己注目/注意/抑うつ


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