発表

2B-064

中高齢者向け「意欲」測定尺度の開発

[責任発表者] 石橋 遼:1
[連名発表者・登壇者] 大場 健太郎#:2, 千 凡晋:3, 杉浦 元亮:2
1:東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター, 2:東北大学加齢医学研究所, 3:仙台白百合女子大学

  問題
 健康で活発な日常生活を送り続けることはすべての人の願いといえる。しかし年齢を重ねるにつれ様々な活動に対する「意欲」や「動機づけ」が全般的に低下してアパシーの傾向が高まることが知られている[1]。一方で極めて活発で高い意欲や動機づけを保持しているとみられるような高齢者も多数存在し,その個人特性や生活習慣への関心が高まっている[2]。「意欲」を保持することが,高齢者における生活の質に重大な影響を及ぼしている可能性があり,科学的検討に値する。しかしながら,中高齢者の全般的な意欲の程度を測る心理学的指標は,病的アパシーの診断目的で開発された自己評価式アパシー尺度(Apathy Scale[3,4])があるものの,健常群の幅広い意欲程度を測定するために適切かどうかは明らかではない。本研究では中高齢の健常者を対象に意欲の程度を計測するツールを開発することを目的として2段階のウェブ調査を行った。
  方法
 インターネット上で50代以上の1398名の回答者を対象に2段階の調査を実施した。第一段階目の調査(N=198)では意欲・モチベーションの高低に関わる様々な表現を収集することを目的とし,以下の二つの問いに対する自由記述を求めた。
1.「意欲的な人,モチベーションの高い人とはどのような人だと思いますか?」
2.「意欲的でない人,モチベーションの低い人とはどのような人だと思いますか?」
上記に対する回答群から重複・類似する表現を抜き出し,52の意欲質問項目を作成した。
 第二段階目の調査(N=1200)では1段階目調査から抽出した項目それぞれへの6段階評定(全く当てはまらない 1-6 非常に当てはまる)を求め,さらに妥当性評価のため自己評価式アパシー尺度(AS)他8つの関連質問紙(計159問)を実施した。
  結果
 意欲評定52項目の回答に関して探索的因子分析を行った結果,3因子38項目で単純構造が得られた(表1)。3因子をそれぞれF1「非・無気力性」,F2「積極性」,F3「ポジティブさ」と命名した。妥当性検証のため,抽出された38項目の総得点とASとの相関分析を行ったところ,強い相関がみられた[r=-.75]。さらに因子得点とAS下位尺度との相関を検討したところ,F1はASの陰性症状スコアと,F2は陽性症状スコアと中程度の相関を示した[r=-.42,-.45]が,F3はASのどちらの下位尺度ともごく弱い相関を示した[r=-.11,-.14]。
  考察
 ASと高い対応を示しつつもより広範囲の「意欲」の程度を測定可能な質問項目群を作成することが出来た。抽出された3つの意欲因子のうちF1「非・無気力性」とF2「積極性」はそれぞれASの陰性症状・陽性症状下位尺度と負の相関を示したことから,ある程度アパシーの対概念としての「意欲」の側面を測定できていると考えられる。これに対してF3「ポジティブさ」はASと相関がほとんどなく,従来のアパシー測定ではとらえきれていない「意欲」の一側面を捉えている可能性がある。項目内容を見ると楽観性[5,6]の概念と一部類似しているといえるが,将来の出来事への期待の高さだけではなく,失敗や困難などのネガティブな事象に対しても積極的に受け入れようとする姿勢が含まれている点に違いが見られる。本質問項目群はASと高い対応を示しつつもより幅広い「意欲」特性を測っている点で,健常群の広範な意欲測定において利点があると考えられる。特に高い意欲を持つ個人の検出やその意欲程度のより正確な測定に有効性を発揮する可能性がある。
  引用文献
[1] Clarke et al., 2007 J Neuropsychiatry Clin Neurosci 19, 57-64. [2] Morrow-Howell et al., 2014 J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci 69, 809-821. [3] Starkstein et al., 1992 J Neuropsychiatry 4, 134-139. [4] 岡田他, 1998 脳卒中 20, 318-323. [5] Scheier et al., 1994 J Personal Soc Psychol 67, 1063-1078. [6] 外山 2013 心理学研究 84, 256-266.

表1. 探索的因子分析結果:38質問項目の因子負荷量
 (0.40以上を強調表示, *逆転項目)

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