発表

2B-063

思春期の学業への動機付けと親子の価値観の関連-パイロット研究-

[責任発表者] 小澤 幸世:1,2
[連名発表者・登壇者] 小池 進介#:1,2,3
1:東京大学進化認知科学研究センター, 2:東京大学人間行動科学研究拠点, 3:東京大学こころの多様性と適応の統合的研究機構

 目 的
 思春期の重要な目標の1つに学業がある。教育分野では,思春期の学業活動に動機付けが関与することが示されてきた。Deci と Ryanによって提唱された自己決定理論では,動機付けの種類が,自律性の高さによって分類されている。このうち,自律性が高い内発的動機付けが,学業成績の向上や学業の継続に特に関与することが示されてきた。さらに子どもの学業への動機付けには,親の学業への関わり方(Wang & Cai, 2017)や期待(Froiland & Davison, 2014)が関与していることなども示されてきた。一方,価値研究の分野では,価値感は人が望むべく方向性へと“動機付けづけられた”状態を意味しているとされ,動機付けの方向性に応じて,価値観の種類が体系化されてきた(Schwartz et al., 2012)。
 動機付けと価値観は密接な関連があると思われるが,実証的検討が見当たらない。そこで本研究では,本国で行われている思春期コホート研究のパイロット研究として,思春期の学業への動機付けと親子の価値観の関連の検討を行う。
 方 法
 本研究は,東京大学ライフサイエンス倫理審査専門委員会によって承認を受けて実施した。
参加者 インターネットアルバイト募集サイト等への掲示などで広く一般募集した167名(年齢: 23.4±8.2, 15-57歳, 男性:81名)。養育者への追加調査案内を了承した養育者に郵送にて質問紙調査を依頼した。回答のうち,25歳未満の思春期(Sawyer et al., 2018; 年齢: 19.79±1.25, 16-22歳,男性: 35名)と母親(年齢: 51.77±3.59, 42–61歳)の71ペアを対象にして,動機付けと価値観の関連を検討した。
質問紙
Brief Personal Values Inventory (BPVI) Schwartzの価値理論に基づき,簡易に価値観を測定する尺度(Ozawa et al., 2018, 表1)。 11件法12項目。母親には,自分の価値観に加えて,子に期待する価値観も質問した。
Perceived Locus of Causality Questionnaire (PLOCQ) 自己決定理論(e.g., Ryan & Deci, 2000)に基づき,動機付けを測定する尺度。7件法16項目。様々な事柄に対する動機付けを測定できるが,本研究では学業に対する動機付けを測定した。4下位尺度があり,いずれもα係数は0.6以上であった。
 結 果
価値観因子の抽出 一般参加者の167名のデータを用いて,BPVIの探索的因子分析(EFA)を実施した(最尤法・バリマックス回転)。スクリープロットから2因子構造が認められ,Schwartzの理論に対応するGrowth/Personal因子とProtective因子が抽出された。母の価値観や母の期待についても,同様の2因子が抽出された。因子得点を用いた。一般募集した参加者(N=167)と思春期データ(N=71)には,価値観因子の得点に有意差はなかった。
価値観と学業への動機付けの関連 思春期と親の71ペアのデータを用いて,重回帰分析(強制投入法)を実施した(表2)。Intrinsic motivation因子で,子と親のGrowth/Personal因子が正の相関,子のProtective因子が負の相関を示した。母の期待の2因子については,有意差がなかった。Amotivation因子では,子のGrowth/Personal因子が負の相関を示した。他の有意差はなかった。
 考 察
 Growth/Personal因子は,興味や信念などの内的な動機付けを反映しており内発的動機付けとの概念的関連があることが示唆された。子だけでなく母のGrowth/Personal因子が,Intrinsic motivation因子を予測したのは,子どもが母の価値観や行動をモデリングによって学習している可能性がある。母の期待がIntrinsic motivation因子を予測しなかったのは,期待がどのように表出されるかによって,正の効果も負の効果も生じうる可能性や,子の学業への態度によって母の期待が異なっている可能性など,要因が交洛しやすいことがあろう。一方,子のProtective因子は,外的な動機付けを反映しているため,内発的動機付けを,低下させる可能性があることも示唆された。
 今後は,サンプルサイズを大きくすること,より低年齢のサンプルを対象とした検討をすることも重要であろう。またSocial Focusの価値観に関連した検討ができなかったため,より細分化された価値観での検討も必要と思われる。

キーワード
動機付け/Schwartzの価値理論/思春期


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