発表

2B-062

シナリオを用いたイメージ想起が主観的な感情体験に与える影響
感情価の異なるシナリオを用いた検討

[責任発表者] 川原 正広:1
[連名発表者・登壇者] 山口 浩:2, 松岡 和生:2
1:新潟リハビリテーション大学, 2:岩手大学

 目 的
 近年,認知療法の研究領域では,Journal of behavior therapy and experimental psychiatry(2007)やMemory(20 04)などで心的イメージを用いた認知療法の特集が組まれたり,心的イメージを用いた介入法のガイドラインを示した書籍(Hackmann, Bennett-Levy & Holmes, 2011)が出版され,心的イメージを用いた認知療法に対する関心が高まりを見せている。
 本研究では,Emily, A. Holmesらのグループが行っているシナリオを用いたイメージ訓練法に関する研究(e.g., Holmes, Mathews, Dalgleish, & Mackintosh, 2006)を参考に,感情価の異なるイメージシナリオを用いた2つのイメージ群(ポジティブイメージ群・ニュートラルイメージ群)を設定し,両イメージ群の間でイメージ想起が感情状態に及ぼす影響が異なるか検討を行った。

 方 法
 実験対象者:岩手県内の大学生,看護短大生,専門学校生197名(男性66名,女性131名)が参加した。実験対象者のうち105名(男性44名,女性61名)がポジティブイメージ群に,92名(男性22名,女性70名)がニュートラルイメージ群に振り分けられた。
 実験計画:短縮版多面的感情尺度の得点について,イメージ条件2(ポジティブイメージ,ニュートラルイメージ:被験者間)×実施時期2(前,後:被験者内)×イメージ回数3(1回,3回,5回:被験者内)の混合計画。
 シナリオ:ポジティブイメージ群とニュートラルイメージ群で使用するイメージシナリオとして川原(2015)が作成した日常の出来事に関するシナリオから,ポジティブシナリオとニュートラルシナリオをそれぞれ9つずつ用いた。 
 質問紙:個人の感情状態を測定する尺度として短縮版多面的感情状態尺度(寺崎・岸本・古賀,1992)の中からネガティブ感情に関する尺度である「不安・抑うつ」,「敵意」の2尺度,ポジティブ感情に関する尺度である「活動快」,「非活動快」の2尺度をそれぞれ用いた。
 手続き:ポジティブイメージ群,ニュートラルイメージ群に分けられた実験対象者には共に実験の目的や個人情報の保護,実験参加の任意性などが説明され,実験実施の同意が得られた者に対してのみ実験を行った。実験前にイメージ想起の練習が行われ,その後イメージ想起前の感情状態を測定する質問紙への回答が求められた。
 本試行では実験者によってポジティブイメージ群ではポジティブな出来事を含むシナリオが,ニュートラルイメージ群では感情価を伴わない出来事に関するシナリオが読み上げられた。実験対象者は実験者が読み上げたシナリオの出来事を自分が体験している様子を頭の中にイメージし,シナリオが読み上げられた後も30秒間目を閉じてイメージし続けることが求められた。
 イメージ想起終了後,実験対象者にはイメージ想起後の感情状態を測定する質問紙に回答することと,イメージを想起したときの様子について尋ねる質問項目に回答することが求められた。
 イメージの想起の条件として,シナリオの読み上げとイメージ想起の作業を1回だけ行う1回条件,シナリオの読み上げとイメージ想起の作業を3回連続で行う3回条件,シナリオの読み上げとイメージ想起の作業を5回連続で行う5回条件の3つの条件を設定した。イメージ想起を連続で行う回数条件は順序効果を考慮し,3回条件,5回条件,1回条件の順とした。

 結 果
 短縮版多面的感情状態尺度の「不安・抑うつ」尺度,「敵意」尺度,「活動快」尺度,「非活動快」尺度の得点についてイメージ条件×実施時期×イメージ回数の3要因分散分析を行った。その結果「不安・抑うつ」尺度と「非活動快」尺度において二次の交互作用が有意であった(F(2,338)=3.65, p < .01,F(2,338)=6.758, p < .01)。イメージ群ごとに実施時期×イメージ回数の単純交互作用の分析を行ったところ,「不安・抑うつ」尺度,「非活動快」尺度共にポジティブイメージ群でのみ交互作用が認められた。(F(2,338)=17.28, p < .001,F(2,338)=7.98, p < .001)。水準別誤差項を用いた単純主効果検定の結果,ポジティブシナリオ群の3回数条件と5回数条件にてイメージ想起の前後で有意な得点の差が認められた(不安・抑うつ:3回条件 F(1,507)=23.08, p < .001, 5回条件 F(1,507)=86.60, p < .001,非活動快:3回条件 F(1,507)=6.15, p < .05, 5回条件 F(1,507)=36.56, p < .001)。
 それに対して「活動快」尺度ではイメージ条件×実施時期,イメージ回数×実施時期,イメージ条件×イメージ回数の交互作用が有意であったものの(F(1,169)=9.05, p < .001,F(2,338)=4.64, p < .01,F(2,338)=7.17, p < .001),「不安・抑うつ」尺度,「非活動快」尺度で見られたような二次の交互作用は認められなかった。また「敵意」尺度に関しては,イメージ回数および実施時期の主効果が認めたが(F(2,338)=6.84, p < .001,F(1,169)=10.77, p < .001),二次の交互作用,一次の交互作用共に認められなかった。

 考 察
 本研究で得られたポジティブイメージ群の3回条件,5回条件においてイメージ想起の前後で有意な「非活動快」尺度の得点の上昇と「不安・抑うつ」尺度の得点の低下が認められた結果からは,肯定的な出来事に関するシナリオを用いたイメージ想起がポジティブな感情を促進すると共に,ネガティブな感情も改善する効果を持つことが示唆される。

キーワード
心的イメージ/感情体験/認知療法


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