発表

2A-070

人工知能による自律性支援可能性の検討

[責任発表者] 江 聚名:1
[連名発表者・登壇者] 田中 あゆみ:2
1:同志社大学, 2:同志社大学

目的
 選択の自由や論理的な根拠を与え,ネガティブな感情にも共感するといった自律性支援は,自律性欲求だけではなく,有能感欲求そして関係性欲求といった三つの心理的欲求を充足することによって,学習意欲やパフォーマンスにポジティブな影響を与えることが,多くの研究により検証されている (see Reeve et al, 2012)。近年,人工知能 (Artificial Intelligence, AI) による学習支援が学習効果に与える影響について注目が集まっているが,その理由の一つはAIによる個別化教育 (Personalized Education)の実現であると考えられる (Goh & Sze, 2019; Rad et al, 2018)。学習者それぞれのニーズやレベルに合わせる個別化教育は,従来の教育環境ではほぼ不可能といえるが,もしAIが人間のように自律性支援をすることができれば,その学習効果をより一層を高めることができるかもしれない。
 本研究では,会話の相手がAIだと教示される場合,その相手による自律性支援が学習意欲に与える効果について,人間による自律性支援の効果と比較することを目的とした。また,その効果は心理的欲求に媒介されるかどうかを検討した。さらに,E-learningを行う際に,人間のようなインターフェースがあったほうが,学習者の動機づけを向上させたことから (Johnson, Rickel & Lester, 2000),本研究では,AIによる自律性支援の効果が,顔写真の有り無しによって変わるかどうかについても検討した。
方法
実験参加者 大学生169名 (女性112名,平均年齢19.87才)
実験協力者 英語が流暢な留学生6名 (中国人2名,韓国人1名,インド人1名,フランス人1名,ガーナ人1名)
実験デザイン 2 (自律性支援あり/自律性支援なし) ×3 (人間/写真ありAI/写真なしAI)の実験者間デザイン
質問紙 心理的欲求尺度 (村井, 2010), 英会話抵抗感尺度 (磯田, 2008)
材料 ノートパソコン2台 (Let's note SZ), 英文テキスト読み上げサイト(Google Translate), ネット電話サービス (Google Hangouts).
手続き 別々の部屋にいる参加者と協力者がパソコンを用いて,英会話を10分間行った。自律性支援あり条件では第一に,参加者は協力者とお互いに自己紹介をした。第二に,協力者が参加者のネガティブな感情を認めるようにした。第三に,参加者に英会話のトピックを選択させた。第四に,会話の最後に参加者は努力について褒められた。一方,自律性支援なしの条件では,このような支援をせず,協力者が会話のトピックを決めて会話を行った。
 人間パートナー条件の参加者には,日本に来たばかりの留学生と英語で会話すると教示した。AIパートナー参加者には,開発されたばかりの会話型のAIと英会話を練習すると教示したが,実は別の部屋で協力者がグーグル翻訳を使って会話を行った。また,人間パートナー条件と写真なしAIパートナー条件の参加者には,パソコンの画面に人影を相手のプロフィル写真として表示した。写真ありAIパートナー条件の参加者には,白人女性のイラストをプロフィル写真として表示した。会話終了後,参加者の心理的欲求と英会話抵抗感を測定した。
結果と考察
 Table 1に各条件における心理的欲求,英会話抵抗感の平均値と標準偏差を示した。
 各パートナー条件における自律性支援の操作をダミー変数化し (なし=0,あり=1),独立変数とした。そして心理的欲求を媒介変数,英会話抵抗感を従属変数とした多母集団媒介分析を行った結果,まず,人間パートナー条件における自律性支援が英会話抵抗感に与える直接効果は有意傾向で (β = .24, p =.102, 95%CI = [-.05, .52]), 写真ありAIパートナー条件の直接効果は有意ではなかった (β = .13, p =.173, 95%CI = [-.06, .33])。写真なしAIパートナー条件における自律性支援は英会話抵抗感を有意に高めた (β = .34, p =.004, 95%CI = [.11, .54])。さらに,人間パートナー条件の自律性支援は心理的欲求に媒介され,英会話抵抗感を低下させたという間接効果が有意であった (β = -.29, p < .001, 95%CI = [-.49, -.11])。写真ありAIパートナー条件の間接効果は有意傾向であった (β = -.18, p = .079, 95%CI = [-.39, .02])。一方,写真なしAIパートナー条件の自律性支援は心理的欲求に有意な影響が与えず,英会話抵抗感に対する間接効果も有意ではなかった (β = -.07, p = .326, 95%CI = [-.24, .33])。
 以上の結果から,人間相手による自律性支援の間接効果より弱かったが,会話の相手がAIだと認知する場合,相手が顔写真をつけたると,自律性支援は学習者の心理的欲求を充足し,英会話抵抗感を低下させたことが分かった。一方,顔写真がない人工知能による自律性支援は心理的欲求を充足せず,さらに参加者の英会話抵抗感を向上させた。つまり,人工知能のエージェントは人間の特徴を有するほど,実施する自律性支援によるポジティブな効果があるかもしれない。

キーワード
自律性支援/人工知能/英会話


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