発表

2A-069

感謝感情と負債感情が実行コストのかかる第三者への向社会的行動に及ぼす影響

[責任発表者] 吉野 優香:1
[連名発表者・登壇者] 相川 充:1
1:筑波大学

【問題・目的】
 人は被援助時に感謝感情と負債感情の2種類を経験する。両感情が相反し片方の感情のみが経験されるとき,感謝感情は第三者への向社会的行動を促進し,負債感情は促進しないと言われている(Bartlett & DeSteno,2006;Tsang,2006;Watkins et al.,2006)。一方,感謝感情と負債感情が共起する場合(蔵永・樋口,2011)の検討は少なく,両感情が第三者への向社会的行動へ及ぼす影響に関する明確な結果は得られていない(吉野・相川,2018a)。
 本研究は,吉野・相川(2018a)の結果を踏まえて,向社会的行動の実行にコストがかかる場合に,両感情の影響が顕著に現れると仮定し,共起する感謝感情と負債感情が実行コストのかかる第三者への向社会的行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
【方法】
実験参加者 大学生62名(分析対象44名 感謝感情喚起条件:15名・負債感情喚起条件:15名・統制条件:14名)
材料 向社会的行動の測定には,サイバーボール課題(以下,CB課題と表記:Williams & Jarvis,2006)を用いた。全90回のキャッチボールを4人で行う内容を1試行とし,2試行した。1試行目は,排斥のない設定とした。実験参加者の投球数は,21-22投であった。2試行目は,playerC(以降,被排斥第三者と表記)が排斥される設定とした。実験参加者の投球数は,29-31投であった。
 向社会的行動の意思は,CB課題の施行ごとに10項目を他の参加者ごとに4件法によって尋ねた。感謝感情4項目と負債感情4項目を11件法(吉野・相川,2018b)で尋ねた。
手続き 実験は,他の学生3名と行うインターネット上でのコミュニケーションゲームとしてカバーストーリーを説明し,CB課題(1試行目)の実施,感情喚起の手続き,CB課題(2試行目)の実施,の順に進めた。
 感情喚起の手続きは,吉野・相川(2018a)の手続きを用い,感謝感情喚起条件では「ありがたかった友人からの手助けを多く思い出した後に,最もありがたかった場面を味わうように追体験するような想起」を求めた。負債感情喚起条件では,上記教示の内,「ありがたい」を「申し訳ない」に変更し教示した。統制条件では,感情体験ではなく,友人との「くだらない・当たり障りない会話」の想起を求めた。
 2試行目のCB課題では,向社会的行動の実行コストを設定するため,得点制のルールを加えた。このルールは,実験参加者が被排斥第三者に得点獲得機会を与えるためには,実験参加者自身の得点を犠牲にする必要がある内容とした。 
【結果】
 分析に用いる変数を作成した。「感謝感情」と「負債感情」の変数は,項目平均値を各得点とした。「向社会的行動」は,実験参加者の投球数のうち,被排斥第三者への投球数の割合を算出し,1試行目から2試行目における投球割合の変化量を得点とした。「向社会的行動の意思」も,項目平均値の1試行目後から2試行目後における変化量を得点とした。
感謝感情喚起の確認 感謝感情を従属変数とし,実験条件を独立変数とした一要因分散分析を行ったところ,条件間に有意な差がみられた(F(2,41)=27.53,p<.001)。多重比較(Bonferroni)の結果,感謝感情喚起条件(M=8.85,SD=1.19)と負債感情喚起条件(M=8.28,SD=1.45)は,どちらも統制条件(M=5.00,SD=1.81)よりも有意に高く感謝感情を喚起した(ps<.001)。感謝感情喚起条件と負債感情喚起条件の間には,有意な差は見られなかった。
負債感情喚起の確認 負債感情を従属変数とし,実験条件を独立変数としたWelchの検定を行ったところ,条件間に有意な差がみられた(F(2,23.39)=73.41,p<.001)。多重比較(Games-Howell)の結果,感謝感情喚起条件(M=3.53,SD=2.86)と負債感情喚起条件(M=7.75,SD=1.01)は,どちらも統制条件(M=1.32,SD=1.80)よりも有意に高く負債感情を喚起した(ps<.05,.001)。感謝感情喚起条件と負債感情喚起条件の間にも有意な差が見られ,負債感情喚起条件の方が高く負債感情を報告した(p<.001)。吉野・相川(2018a)と同様の感情喚起を確認できた。
向社会的行動の差 向社会的行動を従属変数とし,実験条件の3水準を独立変数とした一要因分散分析を行ったところ,条件間に有意な差が見られた(F(2,41)=7.36,p<.01)。多重比較(Bonferroni)の結果,感謝感情喚起条件(M=4.22,SD=12.92)は,統制条件(M=-17.51,SD=16.91)よりも向社会的行動の変化量が有意に増加した。負債感情喚起条件(M=-0.19,SD=17.92)は,向社会的行動の変化量が減少の方向に変化し,その程度は,統制条件よりも有意に小さかった(ps<.01, .05)。感謝感情喚起条件と負債感情喚起条件の間では,有意な差は見られなかった。
向社会的行動の意思の差 被排斥第三者に対する向社会的行動の意思を従属変数とし,実験条件を独立変数とした一要因分散分析を行ったところ,条件間に有意な差が見られた(F(2,41)=3.28,p<.05)。多重比較(Bonfferoni)の結果,感謝感情喚起条件(M=-0.08,SD=0.36)では,統制条件(M=0.38,SD=0.62)よりも,被排斥第三者に対する向社会的行動の意思が有意に減少の方向へ変化したことが示された(p<.05)。負債感情喚起条件(M=0.05,SD=0.57)と統制条件との間および,負債感情喚起条件と感謝感情喚起条件との間には,有意な差がみられなかった。
【考察】
 感謝感情と負債感情を共に喚起するが喚起の程度が異なる2条件は,両感情が喚起されていない条件よりも,実行コストのかかる第三者への向社会的行動を行いやすいことを示した。感情喚起した2条件が統制条件よりも,被排斥第三者への向社会的行動の意思を低く報告した結果は,感情の喚起が向社会的行動を促したことを支持する内容であった。

キーワード
感謝感情/負債感情/向社会的行動


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