発表

1D-065

仮想ストレス状況下におけるインプリシットとエクスプリシット感情の変動が情動焦点型コーピングに与える影響の予備的研究

[責任発表者] 内田 香奈子:1
1:鳴門教育大学

目 的 情動焦点型コーピング(emotion-focused coping)は,Folkman & Lazarus(1980)に代表されるコーピングの下位概念であり,ストレスフルな感情を調整しようとする対処を指す。他方は問題焦点型コーピング(problem-focused coping)で,ストレスの原因への対処を指す。この2つのコーピングが健康や適応に与える影響を概観すると,問題焦点型コーピングは適応の向上に寄与する知見(e.g., Riley & Park, 2014)が示されている。一方の情動焦点型コーピングは,知見が混乱している(内田, 2018)。
 混乱の原因は何であろうか?この疑問へアプローチするためのひとつとして,本研究では情動焦点型コーピングがターゲットとする感情の動きに着目する。近年,感情の機能については,意識下にある感情の機能が強調され,その一部はインプリシット感情(implicit affect; IA)として測定され始めている(Quirin et al., 2009)。そして,エクスプリシット感情(explicit affect; EA)のみでは明らかにされなかった知見や,両感情の相互作用が健康・適応に及ぼす影響が明らかにされつつある(e.g., Quirin & Lane, 2012)。この研究文脈より,問題ある感情に働きかける情動焦点型コーピングも,その適用前のEAとIAの高さをとらえる必要があることがわかる。なお,感情は状態と特性の両様相が存在するため,ストレス状況下において大きく変動する可能性を持つ。本研究では,測定状況をより統一するため仮想的なストレス状況下を設定する。その上で,IAとEAが情動焦点型コーピングに与える影響を検討する。
方 法調査対象者 大学院生40名。このうち,2回とも研究への同意が得られた者,ならびに欠損データを除く22名(男性7名, 平均年齢30.14歳,SD =10.75,女性15名, 平均年齢26.93歳,SD = 8.32)を分析対象とした。
査定道具
1) Emotional Approach Coping Scale(EAC) 日本語・状況版(内田, 2018)Stanton et al.(2000)によって原版が開発された。最近感じたストレスへの情動焦点型コーピングを測定する尺度であり,感情処理と感情表出の2下位尺度から構成される。4件法で回答を求めた。
2) Implicit Positive and Negative Affect Test(IPANAT) 日本語版(下田他, 2014)Quirine et al.(2009)によって原版が開発された。インプリシット正負感情(implicit positive affect: IPA, implicit negative affect: INA)を測定する尺度。4件法で回答を求めた。
3) Positive and Negative Affect Schedule(PANAS) 日本語版(佐藤・安田, 2001)Watson et al.(1988)によって原版が開発された。エクスプリシット正負感情(explicit positive affect: EPA, explicit negative affect: ENA)を測定する尺度。現在の気分の程度について,6件法で回答を求めた。
手続き 大学院の講義を利用して2回実施した。実施は,実施者が協力者へ直接教示した。協力者には調査への協力は強制ではない旨を伝え,参加に同意を得た。1回目(time1: T1)は協力者のベースラインの測定を目的とし,3尺度に回答を求めた。2回目(time2: T2)の調査は約1ヶ月後に実施した。まず,仮想ストレス状況を設定するため,講義のはじめに小テストを5分程度実施した。小テストは講義内容の復習も兼ねるため,全員参加とした。次に,続けて1回目と同様に3尺度へ回答を求めた。調査後には事後説明を行った。なお,小テストは全員参加としたが,最終的に回収はせずに解説のみ行い,その得点も成績には関係のない旨を伝えた。本研究は,鳴門教育大学研究倫理審査委員会の承認とJSPS科研費 JP16K17335の助成を受けて実施した。
結 果 と 考 察 T1と比較し,T2の各変数に変動が見られたのかを確認するため,各変数について時期×性の2要因分散分析を行った。その結果,EPAでは時期の主効果(F(1, 20) = 9.15, p < .01)と交互作用(F(1, 20) = 16.60, p < .01)に有意な値が確認された。それ以外の変数(各コーピングやIA,ENA)では有意な値は確認されなかった。
 次にT1の各感情がT2のコーピングへどのような影響を与えるのかを確認するため,T1のIPA・INAあるいはEPA・ENAを独立変数,T2の各コーピング変数を従属変数として重回帰分析を行った。その結果,有意傾向ではあったが,T1におけるINAの高さがT2の状況的な情動焦点型コーピング(感情表出)を低める結果を確認した。なお,感情の変動に着目し,T2からT1の各感情の差が,T2でのコーピングに与える影響も同様に確認したが,有意な回帰係数は確認されなかった。ただし,この研究では各変数においてT1とT2との間に有意な差がほとんど確認されなかったことから,その介入操作が上手くできていない可能性があった。また,今回は介入群のみの検証であったが,本来であれば統制群も設定した上での検証を行う必要がある。

キーワード
コーピング/感情


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