発表

1D-064

暴力的ゲーム経験が外的注意とプレゼンス感覚に与える影響
動画視聴中の体性感覚刺激に対する脳波と自己報告による検討

[責任発表者] 栗田 聡子:1
[連名発表者・登壇者] 伏田 幸平:2, 片山 順一:2
1:三重大学, 2:関西学院大学

【目 的】暴力的ゲーム(VG)で遊ぶ習慣が心理や行動に与える潜在的な影響はゲーム大国である日本でも懸念されている。だが,現実世界の暴力に対して生理的・感情的・認知的な反応が低下する「脱感作」現象が影響のメカニズムであるという考えが定説である中,その影響に対する科学的な理解は十分とは言えない。例えば,情動的画像を使用した事象関連脳電位(ERP)実験の結果は,「脱感作」は主観的感情と関連しているERPの後期成分(LPP)で顕著に現れる現象であり,初期の注目段階(EPN)ではむしろ「鋭敏化」している可能性を示唆した(栗田・福島・室橋, 2013)。本研究では,VGで遊ぶ習慣による「注目の鋭敏化」という影響の仮説を異なる実験デザインで再検証し,仮想現実空間で感じる自己存在感を意味する「プレゼンス」(e.g. sense of (tele) presence, “being there”)という感覚に焦点をあてた。 
 (Tele)presenceは,1980年にMinskyによって造られた概念で,娯楽や医療等の産業や分野で求められるVR(仮想現実)やAI技術を発展させるための重要な感覚として様々な学術分野で盛んに研究されてきた。それは没入感と近い主観的な感覚であるとされ,客観的に測定することは困難であるとも言われている。VGを好むプレイヤーは,ゲーム遂行中に感じるプレゼンスを通じてEnjoymentを得ているのであれば,その影響として暴力的な内容の動画を視聴中にもプレゼンスを感じやすくなっている事が推測される。そこで,本研究では,VGで日常的に遊ぶ習慣のある学生は,暴力的な内容の動画視聴中の注意レベルが高くプレゼンスを感じやすい,という予測のもと,動画視聴中に呈示したプローブ刺激に対するERPを計測した。先行研究によると,プローブ刺激に対するERPのP300振幅は,主課題(動画視聴)への認知資源の配分量(外的注意)が多いほど減少する。暴力的内容の動画を視聴中に呈示されたプローブ刺激に対するERP (P300) の振幅はVGで日常的に遊ぶ習慣のある学生の方が小さくなると予測した。
【方 法】関西の大学から学部生88名がプリテストに参加し,ゲームを含めたメディア嗜好について回答した。約1か月後,本実験に参加可能な43名が参加した。「暴力的ゲーム経験値」(VGE)は低群27名・高群16名, 平均年齢は20.29歳であった。<手続き>参加者が視聴する動画として,12本(Calm Neutral, Arousing Positive, Arousing Negative (violent), Arousing Coactive 各3本)の刺激を各2分間呈示した。Coactive動画は接近・回避動機の両システムを同時に活性化させる内容である。各動画視聴中に10回の体性感覚刺激(電気刺激)を参加者の左手首に呈示し,脳波(ERP)を32部位(両耳朶平均基準)から1kHzで記録した。脳波は,0.1-30 Hzのバンドパスフィルタを適用後,各刺激呈示前200 msから1000 ms後の区間を対象に,加算波形を算出した。各動画を視聴後に動画に対して感じた覚醒(興奮)度, プレゼンス, 感情(快・不快)の度合いについて聞く質問をディスプレイに呈示し,参加者はリッカート法(9件法)で回答した。
【結 果】<外的注意> 動画視聴中の体性感覚刺激に対するERPのP300振幅において動画内容の主効果はなく, 暴力的ゲーム経験値(VGE)との間で有意な交互作用があった(p=.015)。暴力的な内容の動画(Arousing Negative)とCoactive動画の視聴中, VGE高群のP300振幅は低群よりも有意なレベルで減少しており, より多量の注意資源を配分していた可能性を示唆した(Figure 1参照)。<プレゼンス> VGEのレベルにかかわらず暴力的な内容の動画は最もプレゼンスを感じさせ, VGE高群はその傾向が特に顕著であった(p=.059, Figure 2参照)。覚醒(興奮)度の傾向はプレゼンスと類似していたが,主観的感情(快・不快)に関してはVGEの影響が見られなかった。
【考 察】本実験での結果は,暴力的刺激に対する「注目の鋭敏化」という暴力的ゲーム影響の新説を体性感覚刺激に対する脳波P300で再現したと同時に,「脱感作」の議論に反して主観的な快・不快感情にはほぼ影響しないことを示した。  一方で,暴力的な仮想現実空間で自分が存在するような感覚(プレゼンス)や興奮をより強く感じるようになるという,一つの重要な影響が新たに確認された。その高レベルの覚醒(興奮)度については逆の現象を予測する脱感作の議論と異なることから, 生理的覚醒の究明も合わせて求められる。

キーワード
暴力的ゲーム経験/プレゼンス/事象関連脳電位


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