発表

1C-061

他者のネガティブ情動を効果的に和らげる方略とは?
オンライン掲示板における交流内容の分析結果から

[責任発表者] 野崎 優樹:1
1:甲南大学

目 的 他者のネガティブな情動を上手く和らげるには,どのような方略を用いればよいのだろうか。「自己の情動調整」研究の主要な理論である「プロセスモデル」(Gross, 1998) では,「状況」に「注意」が向けられ,その意味を「評価」することで,情動「反応」が生じるという情動生成プロセスを想定する。そして,情動生成の前段階である「状況」「注意」「評価」を対象とする方略(状況選択/修正,注意の方向づけ,認知的変化)の方が,情動「反応」を直接対象とする方略(反応調整)よりも,効果的に情動調整を行えることが頑健に示されてきた (e.g., Webb et al., 2012)。
 本研究では,Gross (1998) のプロセスモデルを他者の情動の調整に当てはめ,「自己の情動の調整」で効果的に働く方略が,「他者の情動の調整」でも効果的に働くのかを,オンライン掲示板を活用した調査により検討した。
方 法 調査は,倫理審査委員会の承認を得た上で,全ての参加者からインフォームド・コンセントを得て実施した。
 参加者 大学生118名(男性74名,女性44名,平均年齢21.03歳,SD = 1.84)が調査に参加した。
 手続き 参加者は3週間にわたり,調査用のオンライン掲示板サイトに,以下の書き込みおよび評定を行った。1)その日に経験した,ネガティブ情動を感じた出来事の内容とその気持ちを投稿した。そして,そのネガティブ情動の強さを5段階で評定した(5:とても強い~1:とても弱い)。2)他の参加者の投稿内容を読み,その人のネガティブ情動を和らげるよう返信を書いた。3)自分の投稿に他の参加者からの返信がついた場合,その返信を受けて,どの程度自分のネガティブ情動が和らいだかを5段階で評定した(5:非常に和らいだ~1:全く和らがなかった)。ネガティブ情動を感じた出来事の投稿数は計594件,返信の数は計1824件であった。
 コーディング 参加者の返信は,2名の評定者が「他者の情動調整の方略の種類」を以下の分類に従いコーディングした(括弧内はプロセスモデルにおける各方略の位置づけ)。
1) 問題解決:情動感情を引き起こしている状況を改善できるよう解決方法を提案する(状況選択/修正) 2) 気晴らし:何か他のことで気晴らしを行うように言う(注意の方向づけ) 3) 再評価:状況に対する別の見方を提示する(認知的変化) 4) 抑制:今の情動を抑えるように言う(反応調整) 5) リラクゼーション:体を休めるなどリラックスするように言う(反応調整) 6) 共感的関心:相手の感情が理解できるということを伝える(反応調整)。全ての方略について,2名の評定者間の一致度は高かった(Gw2 = .92–.99)。評定者間で相違が見られたものは,第3者の評定者を交えた協議の上,カテゴリを決定した。
結 果 本調査は,返信内容(レベル1),ネガティブ情動を感じたイベント(レベル2),参加者(レベル3)という3段階にネストされた構造であったため,3段階のマルチレベル分析を行った。ICCはレベル1で.776,レベル2で.143,レベル3で.262であった。まず,6種類の他者の情動調整方略(レベル1)を独立変数,ネガティブ情動が和らいだ程度の評定値(レベル1)を従属変数とし,レベル2とレベル3の両方において,ランダム切片とランダム傾きを設定したモデルで分析を行った。研究上の主な関心である各他者の情動調整方略の固定効果の推定値をTable 1に示した。分析の結果,再評価と共感的関心に有意な正の効果が見られた一方,他の方略に関しては有意な関連が見られなかった。
 さらに,方略の効果が,投稿した出来事のネガティブ情動の強さに応じて変わるかを検討するため,上記のモデルに,投稿時のネガティブ情動の評定値(レベル2)を加えたモデルを用いて分析を行った。その結果,投稿した出来事のネガティブ情動が強いほど,再評価は効果的ではなくなることが明らかになった (γ = -0.095, 95% CI [-0.187, -0.002], p = .046)。共感的関心を含む他の方略に関しては,有意な調整効果は認められなかった。
考 察 自己の情動の調整研究の知見から導かれる予想とは異なり,他者のネガティブな情動を和らげる際には,反応調整に属する「共感的関心」が重要な役割を果たすことが明らかになった。この結果は,情動生成の前段階を対象とする方略が効果的であるという従来の理論は,他者の情動を調整する際には必ずしも当てはまらないことを示唆している。
引用文献Gross, J. J. (1998). The emerging field of emotion
 regulation: An integrative review. Review of General
 Psychology
, 2, 271–299.
Webb, T. L., Miles, E., & Sheeran, P. (2012). Dealing
 with feeling: A meta-analysis of the effectiveness of
 strategies derived from the process model of emotion
 regulation. Psychological Bulletin, 138, 775–808.

キーワード
情動調整/コミュニケーション/オンライン掲示板


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