発表

1C-059

悲しいとなぜ胸が痛むのか?
痛みオノマトペによる悲しみ表現

[責任発表者] 白井 真理子:1
[連名発表者・登壇者] 曽雌 崇弘:2
1:同志社大学, 2:京都大学

目 的 悲しみと身体的痛みとの関連は (e.g., Shirai & Suzuki, 2017),「悲しくて胸が痛い」という表現に示されるように経験的に知られている。しかし,悲しみと身体的痛みの関係性がどのような心的基盤に基づき表現されているのかは明らかになっていない。本研究では,「“悲痛”概念により,悲しみと身体的痛みの関係が統合され,悲痛概念は,身体と外的状況の相互作用に関わる特徴に基づいて表現されている」との仮説を立てた。言語的評価法は,概念化を評価する有効な方法であるため,痛みに関する言語刺激 (オノマトペ) を用いた調査を行った。本研究の目的は,悲しみと身体的痛みを表現する悲痛概念を特定すること (分析1),悲痛概念の特徴を形成する外的状況である悲しみ喚起場面を特定すること (分析2),場面特異的な悲痛概念が表現する痛み特性と身体部位を特定すること (分析3) により,「悲痛概念が,身体と環境の相互作用の記憶に基づき,悲しみと身体的痛みの認識に関与する」ことを示すことである。

方 法 実験参加者 大学生69名 (男性36名,女性33名),平均年齢20.39歳 (SD = 1.25歳) であった。
提示刺激 【痛みオノマトペ】感情表現語 (オノマトペ) 擬音語・擬態語4500日本語オノマトペ辞典 (小野, 2007) から,「身体的痛み」表現に関する28語のオノマトペを選出した(e.g. “ずきずき”)。【感情】基本感情のうち4感情 (悲しみ,喜び,怒り,恐れ) を選定した。【悲しみ喚起場面】白井・鈴木 (2013) より6種類の悲しみ喚起場面 (死別,失敗,孤独,失恋,病気,家族の不和) を用いた。【身体部位】痛みオノマトペと適合する身体部位を明らかにするために,36個の身体部位を選定した。【痛み特性】オノマトペが表す身体的痛み特性に関して,「持続性」,「活動性」,「強度」,「鋭敏性」(Kelman, 2006) を調べた。
手続き 調査参加者は,パソコンもしくはスマートフォンのどちらかで,Qualtricsを用いて10件法で回答を行った。【情動適合性】痛みオノマトペが各感情をどの程度表現できるかについて調べた (“全く表現できない” = 1,“非常によく表現できる”= 10)。【場面適合性】悲しみ喚起場面について調べた。【身体適合性】痛みオノマトペが身体部位とどの程度適合するかについて調べた。【痛み特異性】オノマトペが示す痛み特性について調べた。
結果処理 Fig.1 に分析の流れを示す。【分析1】悲しみと適合度の高い痛みのオノマトペ (悲痛オノマトペ) を特定するため,感情評定値による階層クラスター分析,クラスター間の感情適合性の違いについて分散分析を用いて調べた。【分析2】分析1で同定した悲痛オノマトペと喚起場面の関連性を明らかにするため,悲痛オノマトペの悲しみ適合度を目

的変数,悲しみ喚起場面を説明変数とする重回帰分析を行った。【分析3】分析2において特定された場面特異的な悲痛オノマトペの適合度を予測する身体部位と痛み特性を明らかにするため,身体部位と痛み特性を説明変数とし重回帰分析を行った。

結 果 【分析1】7つの悲痛オノマトペが同定された (“しくしく”,“しくりしくり”,“ずきずき”,“ぐさぐさ”,“ちくちく”,“ずきんずきん”,“じんじん”)。【分析2】6つの悲痛オノマトペが特定の悲しみ喚起場面と関わっていた (e.g., “ずきんずきん”: adjusted R2 = .25; F (1, 67) = 23.99, p < .01)。【分析3】オノマトペの場面特異性は,特定の身体部位や痛みの特徴と関連があり (e.g., 死別に対する“ずきんずきん”: adjusted R2 = .06, F (1, 67) = 5.04; p < .01),例えば, “ずきんずきん”の死別場面特異性は「胸部・心臓」(β = .26) が有意な説明変数であった (Shirai & Soshi, 2019)。

考 察 本研究は,悲しみと身体的痛みが身体と環境に関わる特徴に基づいて心的に表現されているとの仮説を立て,言語的概念を用いて調査を行った。結果,悲しみと身体的痛みは特定の言語的概念で表現される悲痛概念として記憶されていることが明らかになった。また,各オノマトペは特定の悲しみ場面および特定の身体部位と関連していた。身体は,外的情報と内的情報を統合する“場”であり,悲しみと身体的痛みを関連づける際に重要な役割を果たす。悲痛概念,身体と外的環境間の相互作用が長期的に記憶され,日常生活の文脈において,悲しみと身体的痛みの認識において機能していることを示している。

キーワード
悲しみ/痛み/オノマトペ


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