発表

1B-064

体験の回避とストレス反応との関連(2)
認知的評価とコーピングの影響を統制した際の検討

[責任発表者] 松本 明生:1
1:福山大学

問題と目的 体験の回避は「人が特定の内的な出来事(身体感覚や情動,思考,記憶,イメージ,行動傾向)を体験することを嫌悪し,その私的出来事の頻度や形態を変えようとすること,またそれが生じる文脈を変えようとすること」と定義され,先行研究では精神的健康との関連が示されてきた(Hayes et al., 2006)。松本(2018a, b)は大学生を対象とした調査を行い,コーピングやストレッサーの影響を統計的に統制しても,体験の回避は心理的ストレス反応に対して説明力を有していることを示した。しかし両研究では,ストレス状況の評価である認知的評価に係る変数(ストレッサー)とそれへの対処の影響を独自に検討しており,その2つの影響を同時に検討していない。本研究では,ストレス反応を説明する2つの変数である認知的評価とコーピングを同時に測定し,それらの影響を統制した際にも体験の回避が心理的ストレス反応と関連しているかを検討する。

方 法研究参加者 2018年6月から12月にかけて,東北,関東および中国地方の大学に在籍している学部学生を対象として調査を実施した。不備のある回答を除いた243名のデータが分析の対象となった。内訳は男性132名 (M =18.8歳,SD =1.1),女性111名 (M =19.3歳,SD =1.2) であった。
測 度 以下の尺度を用いた。
 ①日本語版AAQ 松本・大河内 (2012) が作成した体験の回避を測定する質問紙である。この尺度は「主観的な苦痛を体験しながらも,自己が持つ志向や価値に向かって行動する傾向」を示す項目群であるAction尺度と,「思考や感情などを制御・回避・変容しようとせず十分にそれらを体験しようとする傾向」を示す項目群であるWillingness 尺度の2つの下位尺度,それぞれ5項目ずつで構成されている。
 ②TAC-24 神村他(1995)が作成した心理的ストレスへのコーピングを測定する8つの下位尺度(情報収集,放棄・諦め,計画立案,責任転嫁,肯定的解釈,回避的思考,気晴らし,カタルシス)で構成される,5件法24項目の尺度である。
 ③認知的評価尺度 鈴木・坂野(1998)が作成したストレス状況に対する認知的評価を測定する4下位尺度(コミットメント,影響性の評価,脅威性の評価,コントロール可能性)で構成されている,4件法8項目の尺度である。本研究では,今現在,経験しているストレス状況を想定してもらったうえで評定を依頼した。
 ④SRS-18 鈴木他(1997)が作成した心理的ストレス反応(抑うつ・不安,不機嫌・怒り,無気力)を測定する4件法18項目の尺度である。本研究ではそれらの合計得点を心理的ストレス反応得点として分析を行った。
手続き 調査は教場で実施した。本研究は所属先の倫理委員会による承認を経て実施し,研究参加者には研究への参加・離脱は自由であり,不参加や離脱に伴う不利益はないこと,データは無記名調査によって収集・分析されることを伝えた。

結果と考察 SRS-18合計得点を従属変数とした階層的重回帰分析を行った(Table)。Step1では認知的評価尺度の4つの下位尺度得点を投入した。Step2ではTAC-24の8つの下位尺度得点,Step3では日本語版AAQの2つの下位尺度得点を投入した。Step1では脅威性とコントロール可能性の標準偏回帰係数(β)が有意であり,説明率(R2)も有意であった。Step2では上述の2つの認知的評価下位尺度と4つのコーピング下位尺度得点(カタルシス,放棄・諦め,気晴らし,責任転嫁)のβR2,説明率の増分(ΔR2)が有意であった。Step3でも日本語版AAQの2つの下位尺度得点のβR2ΔR2が有意であった。
 以上の結果は,認知的評価とコーピングの影響を統制した際にも体験の回避が心理的ストレス反応を予測することを示しており,松本(2018a,b)の結果を支持するものである。今後,これらの関連が心理的ストレス反応のみならず,身体的・行動的ストレス反応を指標にした際にも再現されるかを検討することは今後の課題となる。

引用文献①松本明生 (2018a). 体験の回避はコーピングと区別される―情動制御方略としての独自性と心理的ストレス反応への影響の検討 パーソナリティ研究(doi.org/10.2132/personality.27.1.2)
②松本明生 (2018b). 体験の回避とストレス反応との関連―予測的研究による検討 日本心理学会第82回大会発表論文集

謝 辞:本研究はJSPS科研費(JP17K04476)の助成を受けて実施した。

キーワード
体験の回避/ストレスコーピング/認知的評価


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