発表

1A-064

状況要因と特性共感を組み入れた状態共感生起モデルの検討
大学生のデータを用いて

[責任発表者] 登張 真稲:1
1:文教大学

【問題】Davis(1994/1999)は,共感が起こる先行条件として個人の要因と状況の要因,共感が起こる過程,個人の中で起こる共感の感情的及び認知的結果(個人内的結果),相手との間に起こる対人的結果というカテゴリーを設定し,その関連を示す組織的モデルを提唱した。登張他(2010)は中学1年生を対象に感情喚起ビデオを見せ,どのような感情が起きたか,主人公に対してどのように感じたか,ビデオをどのように見たか,主人公がどのような気持ちだと思うかという問に対して,質問紙尺度で自己評定を求め,それをもとに並行的感情反応(主人公と同様の感情が起きた程度),他者志向的反応(主人公に対して思いやりを持つ程度),役割取得(主人公の気持ちを想像する程度),感情理解(主人公の感情を幅広く感じ取る程度)を測定する状態共感測度を作成し,変数間の関係を検討した。役割取得は組織的モデルの共感が起こる過程,並行的感情反応と他者志向的反応と感情理解は個人内的結果に対応すると考えられる。これらの変数は,2000年以降盛んになった共感の神経基盤を研究する分野で共感の3要素とされる(1)感情の共有,(2)感情の理解,(3)他者に対する気遣い(登張,2014)とも対応している(並行的感情反応は(1)に,他者志向的反応は(3)に,感情理解は(2)に対応すると考えられる)。
 大学生男女を対象に同じビデオと同様の質問紙を用いた登張・大山(2012)では,感情認知の手がかりとなる表情や状況への注目について尋ねる項目を加え,その変数を加えたモデルを検討した。これらの研究では,自動的に起こる過程を測定する項目を含むとともに,主人公に対して共通点を感じる程度,状況を深刻と感じる程度という状況変数についての測定も行っていた。また,一部のデータを除いて,特性共感(多次元的共感性尺度;登張,2003)の測定も行っていた。本研究では,特性共感を含む大学生対象の調査データをもとに,自動的過程の変数と状況要因,および個人の要因として特性共感を加えた状態共感の生起モデルを検討する。
【方法】協力者:大学生の男子98,女子59名,計157名。
刺激:2000年にNHKで放映された「中学生日記」の一部。男子(女子)中学生の主人公がいじめられる内容(2種類)。
測度:役割取得尺度,並行的感情反応尺度,他者志向的反応尺度,感情理解尺度(登張他,2010),表情に注目した,状況に注目した(登張・大山,2012),引き込まれてしまった(自動的に起こる過程を測定する項目として採用した),主人公との間に共通点を感じた(5件法),深刻だと思う(6件法);多次元的共感性尺度(登張,2003)のうち,共感的関心,気持ちの想像の2下位尺度を特性共感尺度として採用した。
【結果と考察】組織的モデルをもとに,状況要因の共通点と深刻さ,および特性共感が共感喚起過程(表情と状況への注目,自動的過程,役割取得)と個人内的結果(並行的感情反応,他者志向的反応,感情理解)の各変数に影響を与え,共感喚起過程変数は個人内的結果の変数に影響を与えると考えた。なお,共通点と特性共感尺度の間には有意な相関はみられなかったが,深刻さと特性共感の間には正の相関がみられたため,特性共感が深刻さに影響を与えると仮定した。また,特性共感2尺度間には有意な相関があると仮定した。共感喚起過程の変数間の関係は,状況への注目は表情への注目に影響を与え,表情や状況への注目が自動的過程と役割取得に影響を与え,自動的過程が役割取得に影響を与えるという因果関係を仮定した。個人内的結果の変数間の関係は,並行的感情反応は他者志向的反応と感情理解に影響を与え,感情理解は他者志向的反応に影響を与えるという因果関係を仮定した。どの尺度も2つの刺激についての合計得点を用いて,上記の因果関係の推定をもとに,有意な相関がみられる変数間をパスで結んだモデルを検討した。パス係数の有意確率が.10未満のパスのみを残したモデル(Figure 1)は十分な適合度をもつモデルとなった。
 共通点は自動的過程と役割取得と並行的感情反応に,深刻さは表情や状況への注目と自動的過程,並行的感情反応,他者志向的反応,感情理解に,共感的関心は深刻さの評定と表情への注目,他者志向的反応,感情理解に,気持ちの想像は状況への注目と役割取得に有意な影響を与えていた。役割取得の分散は共通点と表情や状況への注目,自動的過程,気持ちの想像によって,並行的感情反応は自動的過程と深刻さと役割取得と共通点によって,他者志向的反応は役割取得と並行的感情反応と深刻さと共感的関心と自動的過程によって,感情理解は状況への注目と共感的関心と深刻さと並行的感情反応によって説明された。
 共感の神経イメージング研究で関与が示唆されたミラーニューロン・システムは表情への注目→自動的過程に,メンタライジング・システムは役割取得に関与すると考えられる。状態共感の生起には,自動的過程と役割取得,感情手がかりへの注目のほか,特性共感や状況要因も関与していることが示唆された。
【引用文献】登張他(2010).パーソナリティ研究,19, 122-133. (その他省略)

キーワード
共感の生起モデル/状況要因/特性共感


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