発表

3B-059

動詞文イメージ生成と思考・感情変化の関係

[責任発表者] 平 知宏:1
1:大阪市立大学

目 的
文理解の過程では文意に伴う空間的な表象が生成され,我々はこうした空間的な表象が意味する方向性に従い,行動それ自体を促進させたり抑制したりすることがわかっている(Glenberg & Kaschak, 2002; 平他, 2007)。こうした空間的な表象は,認知言語学の領域等ではイメージスキーマと呼称され,各表現と空間的な要素との対応関係が議論されている。一方で,これまでの研究では,特定の表現に対応する空間情報が,人間の認知過程の結果であるという観点に立っておらず,言語理解としての空間的な表象が成立する過程については未解明な点が多い。これに対し平(2017)では,日本語の他動詞および目的語を含んだ文に対し,前後上下を表す9×9マスのグリッド上に主語と目的語の関係性を描画させる課題と,各文内の目的語に対する感情値評定を用い,両者から文意の認識と実際のイメージとの関係性を検討している。しかしこの研究では,文内で表現される目的語に対する思考や感情の変遷といった動的側面は扱っておらず,イメージ生成に影響を及ぼす要因についても詳細な検討が行われていない。本研究ではこれらを踏まえて,特に文意に対する思考・感情やその変化的な側面が,実際の描画イメージとどのように関係しあうのかを検討した。

方 法
参加者 調査は,Web調査システムLimeSurveyを用いて行われた。調査には,日本語を母語とする大学生74名(男性58名,女性16名,平均年齢19.7歳)が参加した。
材料 ターゲット文は平(2017)同様の,日本語の動詞を含む文48文であった。これらは,具体的な身体動作を伴う具体動詞24語(押し上げる/落とす),具体的な身体動作を伴わない人の思考や価値判断を表す抽象動詞24語(尊敬する/軽蔑する)を用いて,「(文脈),私は(目的語)を(動詞)」形式の日本語の短文であった。短文での目的語は,具体動詞に対しては具体的な事物(お菓子/書類/箱/ボール……等),抽象動詞に対しては不特定の人物を表す語(彼/彼女)を用いた。
手続き 調査では,調査参加者に対し,評定練習用文2文とターゲットのうち24文を呈示し,各文の主語(私)は,目的語に対し行動完了「前」と「後」の状態において,①深く考える状態にあるか(1: 全くそう思わない~5: とてもそう思う)②どの程度好ましい感情を抱いているか(1: 全くそう思わない~5: とてもそう思う)について,4つの観点(前・後×熟慮・感情)に基づき5件法で評定を行わせた。

結 果
ターゲット文48文に対して,動詞が示す行動完了「前」「後」それぞれの熟慮性評定,感情評定の平均値を求め,各文の基本的なパラメータとして設定した。また本データに基づき,行動完了「前」より行動完了「後」の熟慮性評定,感情評定が変化したかの値を,熟慮変化値,感情変化値と設定し,それぞれの評定値から(行動完了「後」-行動完了「前」)の式に基づき算出した。これらのデータに対し,平(2017)で求めた,各文の行動完了前後における主語に対する目的語の描画位置(x軸,y軸)や主語に対する目的語の位置角度,表現の身体運動性,目的語に対する感情評定の結果との相関を求めた。
その結果,行動完了「後」の感情および「前」に比べた「後」の感情変化と,平(2017)での感情強度(目的語に対する快(7)-不快(1) 評定)との間に強い相関がみられた(r = .94, 79)。これは,両調査で尋ねている項目内容間に強い整合性があることが考えられる。また,行動完了「後」の感情評定と平(2017)での行動完了「後」の目的語の位置(x軸y軸)との間に中程度の相関がみられ(r = .42, .48),目的語に対して快感情を抱くほど,主語に対して前方向および上方向に目的語が描画されることが示された。こうした傾向は,行動完了前後の感情変化値にも示されており(r = .60, .56),快不快の感情それ自体が空間イメージの上下前後の生成に関与する可能性があるといえるだろう。また行動完了前後の熟慮変化値は,行動完了「後」の目的語のx軸値においてのみ中程度の相関がみられており(r = .43),よく考える必要のある目的語ほど前方向に描画されることが示された。ただしこうした一連の傾向については,具体文と抽象文とでは若干の際がみられており,特に抽象文ほど行動完了後のy軸の位置に感情に関する値が強く影響を及ぼしうること(r = .71, 76),熟慮に関する値は,抽象文のみx軸の位置関係に影響しうること,具体文においては,特に動作完了「後」の感情と種ごとの目的語の描画角度の大きさと相関がみられること等がわかった(r = .41, .60)。

考 察
本研究からは,特に行動完了「後」とされる抽象文意のイメージ的な認識において,文意から読み取れる思考および感情やその変化が影響しうることが示された。行動完了「前」であれば多様な文脈や背景が想定されることから,必ずしも文意そのものの認識が影響することは考えにくく,思考や感情の結果は,イメージが固定されるような行動完了「後」のパラメータにのみ影響を与えうるものだと考えることができるだろう。実際に行動指標を用いた研究では,文意を過去形などの行動が完了した状態を表現する文を用いた手続きが多く利用されており,本結果を間接的に支持するものとも考えられる。
本研究については引き続きパラメータ間の詳細な分析を行い,具体的な思考・感情を操作したうえでのイメージ生成を行わせるような実験的検討を行うことを目指したい。

キーワード
イメージスキーマ/動詞文/感情


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